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第2回会員研究会報告「フラワーデモ神戸オンラインセミナー」

会員研究会報告

フラワーデモ神戸オンラインセミナー

「被害者の声を尊重する社会へ――刑法性犯罪規定の改正に向けて」

 

日時:2021年1月10日(日)13:30~16:00

場所:オンライン(ZOOM使用)

当日参加者104名(後日配信希望者16名)

 

性暴力反対運動フラワーデモの開始から1年以上が経過し、性差別的な司法のありように対する怒りの声は、いまや大きなうねりとなって全国に広がっている。だが、フラワーデモの一般参加者、さらには運営に関わる人間にとっても、現行刑法の問題点や改正の論点について深く学び考える機会は、思いのほか限られているのが実情である。そこで、フラワーデモ神戸運営チームでは、日本の刑事司法が抱えるジェンダー・バイアスについて今一度広く共有するため、無料のオンラインセミナーを開催した。

本セミナーでは、フランス刑法およびジェンダー刑法を専門とする島岡まな氏(大阪大学大学院法学研究科教授)を講師にお招きした。島岡氏は、長年にわたり、性犯罪問題におけるジェンダー平等・弱者保護の視点の必要性を強調されており、現在行われている法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」にもヒアリング出席者として参加されている。

セミナーでの講演内容は、おおむね以下の3点であった。第一に、2017年に大幅改正を遂げた現行刑法であるが、いわゆる「暴行・脅迫要件」を依然として残しており、「被害者の抗拒を不能とするほどの強い暴行・脅迫が必要」という判例・学説上の解釈・適用にも変化はない。その背景には、被害女性の性的自己決定権ではなく貞操(男系の家の血統)を保護法益とする旧強姦罪の価値観、そして性交時の暴行を許容する男性側の論理がある。2019年3月に相次いだ4件の性犯罪無罪判決は、こうしたジェンダー差別的な性犯罪規定と、裁判官の経験則にみられるジェンダー・バイアスを明るみに出すものであった。

第二に、一連の無罪判決に示される司法の問題点を解消するには、以下のような解決策が考えられる。① 暴行・脅迫要件の撤廃・緩和。諸外国では、レイプの本質を「暴行・脅迫」の有無とは無関係だとする考え方が大勢であり、日本でも不同意性交をすべて強制性交とする改正が必要である。② 「過失犯」の立法。現行刑法では強制性交等罪は「故意犯」とされるため、被告人が不注意で「同意がある」と誤信した場合は無罪となってしまう。過失強姦罪を新設したスウェーデンにならって、日本でも過失強制性交等罪を新設すべきである。③ 裁判官(法曹)へのジェンダー教育。法律が改正されても、裁判官が男性ばかりであったり、ジェンダー・バイアスが強かったりすれば、被害者に不利な判決が量産されてしまう。諸外国にならって、日本でも国の責任による裁判官教育が急務である。

第三に、いま残されている法律上の不備や裁判官のジェンダー・バイアスの問題は、日本社会全体のジェンダー不平等の反映である。暴行・脅迫要件の緩和・撤廃を達成した国々はいずれもジェンダー平等先進国であることを考えても、性犯罪問題の真の解決は、社会全体のジェンダー平等推進と人々の意識改革に懸かっているといえる。

本セミナーは、全国各地から104名、後日配信希望者を含めて延べ120名が参加する大規模なイベントとなった。参加者のなかには各地のフラワーデモ主催者も含まれており、性暴力と闘う人々の繋がりを可視化する意味でも、きわめて有意義であったといえる。事前に実施したアンケートでは「初学者として学びたい」といった声もあり、参加者の知識・関心には大きな幅があることが窺えたが、島岡氏の講演は、刑法の専門的知識をもたない人にも実に理解しやすいものであった。特に、自身のフランス留学体験から日本社会のジェンダー不平等に気づいていったという個人的エピソードは大変印象的であり、多くの参加者の共感を呼んだと考えられる。

2021年1月現在、法務省の刑事法検討会の議論は、あまり望ましい方向に進んでおらず、不同意性交罪の創設さえも実現困難な状況だという。フラワーデモ神戸運営チームとしては、司法の変革はジェンダー平等社会の実現に向けた小さな積み重ねから始まると信じて、今後も地道に活動を続けていきたいと考えている。

なお、日本女性学会からの研究会助成は、講師謝金、ZOOM有料版使用に係る月額料金、広報用チラシ作成に充てさせていただきました。ここに記して感謝申し上げます。

(文責:近藤凜太朗)

 

第1回会員研究会記録「ポストコロナ期のエッセンシャルワーカーのあり方への提案(2)」

ポストコロナ期のエッセンシャルワーカーのあり方への提案―2020 !問題提起からはじめる

主催:社会へ届ける女性の活動研究会(日本女性学会助成事業)
2020年 12 月 19 日(土)
エッセンシャルワーカーのあり方―法的視点をふまえて
(講師:伊藤みどり)

第二回研究会記録20201219_伊藤

当日配布資料:伊藤レジュメ20201219

第1回会員研究会講演記録「ポストコロナ期のエッセンシャルワーカーのあり方への提案(1)」

ポストコロナ期のエッセンシャルワーカーのあり方への提案―2020 !問題提起からはじめる

主催:社会へ届ける女性の活動研究会(日本女性学会助成事業)

2020年 11 月 21 日(土)
エッセンシャルワーカーのあり方―公務非正規問題を足掛かりに
(講師:瀬山紀子)

講演記録:第一回研究会記録20201121_瀬山(1)
当日配布資料:瀬山レジュメ20201121

 

 

 

2019年度大会シンポジウムプレ研究会報告

2018年3月10日に武蔵大学において、「男性性研究で何がみえてくるか」と題して、2019年大会シンポジウムのプレ研究会を開催した。今回は予定シンポジスト4人のうち、都合により欠席となった田房永子さんを除く3人(江原由美子さん、平山亮さん、すぎむらなおみさん)にお越しいただき発表をしていただいた。
江原さんは「なぜ「男はつらいよ」路線の男性性研究は嫌われるのか?-男性性研究のフェミニズムにとっての意義ー」、すぎむらさんは「現場レポート」として、学校の状況の報告と、少年スポーツチームの報告の2本を報告された。平山さんは「『らしさ』による制約」で終わらない男性性研究へ」と題する報告をされた。参加者から質問や熱心な議論がいくつか続き、各報告を興味深くお聞きし、報告者同士も互いに刺激されあいながら、大会本番のシンポジウムでの各報告者の役割分担や流れ、順番などについての調整を行った。
(北仲千里)

2016年大会シンポジウムプレ研究会(3月20日)の報告

法の施行に先立って、これほどまでに実効性を疑われる法律はあっただろうか。2016年度日本女性学会大会シンポジウム「「女性活躍推進法」時代の女性学・ジェンダー研究」のプレ研究会での議論を聞きながら、そう感じた。

「女性活躍推進法」によってでは、現在女性たちがぶつかっている壁を取り除くことはできず、さらなる格差拡大が懸念される、という認識において、3人の報告者に大きな違いはなかったし、それどころか報告を聞く側にとってすら、所与の前提となっている観があった。むしろ問題は、取り除く困難さを「女性活躍推進法」によって照射されることになる「女性たちがぶつかっている壁」を、どのように壊していくのか。また、「女性活躍推進法」によって拡大される格差の、解消には何が必要となるのか。つまり「ポスト「女性活躍推進法」時代」をどう構想するのか、という点にあるのだと言えるだろう。

出産後も育児休業を取得し職業を継続するのが当たり前になった「育休世代」の正社員総合職女性においても、マミートラックによりやりがいを失っても平気でいるようでないと職場に残れない、という状況を指摘した中野円佳氏。「入試難易度の低い」高校を卒業した女性たちが、非正規不安定労働を転々とし、家族との軋轢や将来の見えなさ、貧困に悩みつつ、自らを支える地元や福祉関係者とのネットワークを作り生きていく姿を、報告した杉田真衣氏。一見対照的な女性層を対象とした報告のようであるが、労働の典型がいまだに「ケアとの両立不可能な業績主義的<男性的>労働」におかれ、そこから外れる者からはやりがいも最低限の生活の質保障も剥奪されてしまうのだという、共通の根をもつ問題であることが感じられた。しかも、女性活躍推進政策の展開過程を俯瞰する清水愛砂氏の報告によれば、今後「リケジョ(理系女子学生・研究者)増産」に重点化されたキャリア教育へと女性学・ジェンダー研究が併合されていく可能性があり、そうなれば女性学・ジェンダー教育自体が「業績主義的<男性的>労働」の典型化に棹をさすことになりかねない。

「業績主義的<男性的>労働」の典型化に疑問符を突きつけつつ、女性管理職の少なさをいかに問題化していくか。センセーショナルに「貧困女子」を取り上げたり、女性不安定労者の「キャリア意識の低さ」をあげつらうのではない、女性自身の経験に寄り添った「女性と貧困」問題の言語化をいかに積み重ねていくか。安倍・新保守主義政権による憲法改悪・基本的人権の骨抜きという「大きな政治」の流れにも同時に目を配りつつ、具体的実証的研究成果の地道だが迅速な積み重ねが、いまこそ必要なのではないかと感じさせられた研究会であった。(文責:海妻径子)

「『社会を動かす女性学』プレ研究会」報告

2010年6月開催の大会シンポ『社会を動かす女性学』のプレ研究会を、3月19日11時〜13時に、ピープルズ・プラン研究所にて開催。シンポジストの江原由美子さん、内藤和美さん、赤羽佳代子さん、荒木菜穂さんの4名より報告があり、報告者以外に15名が参加しました。
江原報告は、70年代以降の女性学・ジェンダー研究のあゆみを振り返り、現在のバックラッシュへの抵抗可能性を提起。日々の生活に不安を感じる人たちにフェミニズムはいかなる貢献ができるかと問題提起があり、また、女性学、フェミニズム、ジェンダー研究等、言葉の不統一の問題も指摘されました。
内藤報告は、高等教育での女性学・ジェンダー研究の実態分析、体系的知の形成や高等教育における主流化に向けての課題を報告。また、研究者と政策・行政とのかかわり、女性/共同参画センターの制度整備への女性学の貢献可能性が、問題提起されました。
赤羽報告は、労働運動にかかわってきたご自身がいかに女性学と接点を持ったのか、女性学の魅力と女性学の現状への批判を述べ、社会を変える際のアカデミズムの言語の有効性と分かりにくさにも言及しました。
荒木報告は、多様な女性が存在するにもかかわらず「女性」カテゴリーを設定する意味や、これまで女性学がどのような自他の関係性を目指してきたかを検討。他者への応答責任や相互承認にもとづく、社会変革に有用な関係性を模索する重要性を指摘しました。

(研究会担当幹事)