NewsLetter 第105号 2006年2月発行

日本女性学会NewsLetter

(*会員に送付しているペーパー版の「学会ニュース」とは内容が一部異なります)

女性学会ニュース第105号[PDF] 2006年2月発行


 

学会ニュース
日本女性学会 第105号 2006年2月

日本女性学会大会シンポジウム案内

 

テーマ:ジェンダーをめぐる暴力とトラウマ
─暴力への対抗としての、フェミニズムの希望のあり方

 

日 時 2006年6月10日(土)午後1時〜4時半
場 所 大阪ドーンセンター
パネリスト 大越 愛子、木村 涼子、宮地 尚子
コーディネーター 伊田 広行

趣旨: グローバリズムと新自由主義の下で格差拡大/弱肉強食化がすすみ、憲法「改正」や戦争への抵抗感が低下し、フェミニズム・バッシングのような「人権運動」攻撃が起こっている。それは広義の暴力状況の蔓延である。あるいは暴力への鈍感さの広がりである。

それに対し本シンポジウムでは、三人の論者が、暴力やトラウマ概念との関係で、「私にとってのフェミニズムとはどのようなものか」「私にとってフェミニズム/ジェンダーがいかに大事か」「今のバッシング状況においてフェミニズムやジェンダーの視点がなぜ重要なのか」を語る。

もとよりそれは、単に個人的なことを語るとか、すでに確立しているジェンダーの議論をなぞるという話ではない。今回のシンポジウムは、参加者一人ひとりが、そこでの問題提起や提示される「視点」を受け止め、改めてフェミニズム/ジェンダー論を捉え直す契機とするための試みなのである。というのは暴力への理解が表面的でその影響に対する認識が深まらず、このことに比例してフェミニズム・ジェンダー論への理解も深まらない状況が見られるためである。三人の論者は、深いフェミニズムの理解を世間に提起するという意気込みで、各自のフェミニズム論を展開する。

もちろん、暴力概念は、戦争や犯罪や性暴力や虐待や人間関係における支配など多様な側面を持っている。ある意味、世間は、「もう十分、暴力を知っている」つもりであろう。しかし、それは事実であろうか。たとえば、「暴力(差別)の被害を受けるということ」がそれを体験したものにとって、どのような経験として認識されているのか、あるいは語れない記憶として封印されてしまっていたのか、いくつもの「なぜ」を重ねて暴力の体験のもつ意味について理解されているであろうか。

フェミニズムの場面に「女性への暴力(VAW)」の視点が確立して以来ここ10数年の取り組みを踏まえて、まさに女性と暴力の問題の認識にフェミニズムが拓いてきた地平を確認する作業として、本シンポはあると言ってもよいであろう。VAWの取り組みの中から、すなわちDV、レイプ、セクシャル・ハラスメント、「慰安婦」問題などの取り組みを通して、暴力に対するフェミニズムのまなざしは、より深くよりセンシティブな側面へと向け変えられ、暴力の内面的な理解において「トラウマ」の概念を不可欠とする、暴力の問題の認識論的なパラダイム転換を図ってきている。

しかしフェミニズムが暴力の主題においてあえて「トラウマ」概念を引き入れて議論の場を作ろうとするのは、阪神大震災以降の日本社会のメディア・世間を席巻する通俗化された心理主義に還元されるトラウマ論の尻馬にのるものではもちろんない。それらとは明確に一線を画しつつ、しかし「トラウマ」と「暴力」と「ジェンダー」のつなぐ主題の中で、三人の論者のそれぞれの運動や研究上のバックグラウンドからの問題提起を通して、なぜにフェミニズムの暴力への視座に「トラウマ」の概念が不可欠とされるのかについて問い、さらにそこから「フェミニズムの現在的課題」を参加者とともに確認しうる場となることを本シンポは期待しているのである。

あえて「トラウマ」という表現を使わないとしても、私たちの生きている日常世界には、大きな声のものが相手を圧倒するのがよしとされ、強引にジェンダーフリー・バッシングがまかり通り、日々、報道で暴力が消費され皆がそれに鈍感になっている、つまり自らの抑圧を踏襲してしまっているという現実がある。そうした現実を生きる一人ひとりの内面の「ジェンダーに基づく暴力による被傷感」、その「痛みの感覚」や「自尊感情の回復」に届くフェミニズムを考えるとき、「トラウマ」論が投げかけているものは無視し得ないはずだ。この暴力に満ち満ちた空間の「現在」を生きている人々の内面の生きがたさへの気づきの回路にとって、「トラウマ」という概念は、フェミニズムがこれまで家父長制やジェンダー概念によって見てきた問題とは違った側面を私たちに導いてくれるのではないか。そのような予感の中で「トラウマ」と暴力の主題は立てられている。

宮地尚子氏は、「暴力(差別)の被害を受けるということ」にトラウマという視点から切り込んだ研究をしている。暴力とは、恐怖とは何か、暴力の被害者はどうなるのか、それへの関わり方においてジェンダー概念にはどのような意義があるのかといった諸点に言及し、暴力/非暴力、加害/被害、当事者/非当事者、トラウマなどの問題を、女性=非暴力という本質主義に陥らない水準で議論するための手がかりを提示する。

大越愛子氏は、「従軍慰安婦」問題、日韓近現代史のテキスト作成、ウィメン・イン・ブラック(WIB)の運動、「女性・戦争・人権」学会の活動、などを通じて、暴力と対抗する活動に関わっている。そうした活動の中からつかみとり練り上げた自身のフェミニズムを改めて展開し、暴力的雰囲気が拡大する背景には何があるのか、「暴力」に対抗するとはどのようなことか、暴力に対抗する「非暴力主義」とは何か、について語る。

木村涼子氏は、『ジェンダーフリー・トラブル』(現代書館、2005年12月発行)の編者であり、教育の分野で豊かなジェンダー論を展開してきた。昨今のジェンダーフリー・バッシングは、そのあり方自体が暴力的であり、また教育の場で子どもたちを取り巻く環境全体も、多様な意味で暴力的である。その中でフェミニズムは、あるいは「ジェンダーフリー教育」は、どのような意味で暴力ではないものを伝えようとしてきたのかを語る。

こうした問題提起と議論を通じて、フェミニズムの理論的深化を目指すと同時に、ジェンダーフリー・バッシングおよび暴力への対抗論としての、フェミニズムの希望のあり方を社会に提示するための機会としたい。

●上野千鶴子さんの国分寺市講師外し事件について

すでにご存じの方も多いかと思いますが、昨年、東京都国分寺市が都の委託を受けて計画していた人権問題に関する講座で上野さんを講師に招聘しようとしたところ、都の方から講師を変えない限り委託契約を結ぶことはできないと告げられ、結果的に講座の計画そのものが中止となるということが起きました(新聞記事を参照)。

これに関して上野さんは、2006年1月13日付けで添付資料のような公開質問状を東京都と国分寺市宛に送り、また国分寺市市民の方々からも市に対して、市のとった行動の説明を求める公開質問状が出されました。さらにこれとは別に、若桑みどりさんが発起人となり、ジェンダー研究者らに広く呼びかけて作成された抗議文「上野千鶴子東大教授の国分寺市『人権に関する講座』講師の拒否について、これを『言論・思想・学問の自由』への重大な侵害として抗議する」も、1月27日、東京都に提出されています。この抗議文には1808人の個人と6団体が署名を行いました。

日本女性学会幹事会としてもこの問題の重大性にかんがみ、声明として以下の見解を発表することにしました。

◆「東京都による上野氏講師はずし事件」に関しての日本女性学会の声明

2006年2月1日 東京都国分寺市が、市民を交えた準備会をつくって準備していた人権学習の講座で、上野千鶴子・東大大学院教授(社会学)を講師に招こうとしたところ、委託関係にあった東京都教育庁が「ジェンダー・フリーに対する都の見解に合わない」と委託を拒否し、そのため講座自体が中止となった事件に対して、日本女性学会はここに意見を表明します。

1 東京都教育委員会が事業を委託したからといって、別自治体である国分寺市が市民と協働で企画した人権教育推進事業の講師選定に指示を出したことは、地方自治の本旨からいって越権行為である。

2 上野千鶴子氏が「ジェンダー・フリー」という用語を使うかもしれない、女性学の専門家であるといった理由で講演を中止させるのは、講師と市民に対する思想信条の統制であり、憲法第19条「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」、第23条「学問の自由は、これを保障する」に反する行為である。

3 女性学・ジェンダー研究者であれば、「ジェンダー」や「ジェンダー・フリー」という用語を使うことは当然ありえる。これらの概念を使用させないという考えは、まったく認められない。

4 今回の東京都の姿勢は、学問として確立された女性学やジェンダー研究に対して、それを偏った学問と判定していることになる。これは断じて認めるわけにはいかない。

5 東京都は、今回の一連の対応を総括し、謝罪と政策の修正を行うべきである。

日本女性学会第13期幹事会

 

■資料:上野さんの公開質問状

2006年1月13日

宛先:東京都知事・東京都教育長・東京都教育委員会委員長・東京都教育庁生涯学習スポーツ社会教育課長・国分寺市長・国分寺市教育長・国分寺市教育委員会委員長・国分寺教育委員会生涯学習推進課長公開質問状

平成17年度における文部科学省委託事業「人権教育推進のための調査研究事業」について、私を講師とする事業計画案を都教育庁が拒否した件について、国分寺市の「人権に関する講座」準備会のメンバーおよび、2005年11月20日に開催された「人権を考える市民集会」参加者から、経過説明を受けました。また2006年1月10日付け毎日新聞夕刊報道「「ジェンダー・フリー」使うかも…都「女性学の権威」と拒否」(別送資料1)によって、都の発言内容が一部明らかになりましたので、以下の事実について、説明を求め、抗議します。

2006.1.10

(1)今回の国分寺市の委託事業の拒否にあたって、都および市のどの部局がいかなる手続きによって意思決定に至ったか、その責任者は誰であるかを、私にお示しください。

(2)その際、上野が講師として不適切であるとの判断を、いかなる根拠にもとづいて示したかを、示してください。なお、報告と報道にもとづいて知り得た限りの、都の説明に対する反論を、以下に記しておきます。

1) 今回の講師案は「人権講座」であり、「女性学」講座ではない。講演タイトルにも内容にも「女性学」が含まれないにもかかわらず、「女性学」の専門家であることを根拠に拒否する理由がない。それならば、今後、この種の社会教育事業に、女性学関係者をいっさい起用しないということになる。

2) 女性学研究者のあいだでは、「ジェンダー・フリー」の使用について一致がなく、一般に私を含む研究者は「ジェンダー・フリー」を用いない者が多い。さらに私は、「ジェンダー・フリー」を用語として採用しない立場を、公刊物のなかで明らかにしている。(別送資料2)都の判断は、無知にもとづくものであり、上野の研究内容や女性学の状況について情報収集したとは思えない。

3) とはいえ、私自身は「ジェンダー・フリー」の用語は採用しないが、他の人が使用することを妨げるものではなく、とりわけ公的機関がこのような用語の統制に介入することには反対である。なお、「ジェンダー・フリー」という用語について申し述べておけば、「ジェンダー・フリー」を「体操の着替えを男女同室で行うなど、行きすぎた男女の同一化につながる」という「誤解」が生じたのは、「誤解」する側に責任があり、「ジェンダー・フリー」の用語そのものにはない。

4) 毎日新聞報道によれば、都の説明は「上野さんは女性学の権威。講演で『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり、都の委託事業に認められない」とある。私は女性学の「権威」と呼ばれることは歓迎しないが、女性学の担い手ではある。都の見解では、「女性学研究者」すなわち「ジェンダー・フリー」の使用者、という短絡が成り立ち、これでは1)と同様、都の社会教育事業から私を含めて女性学関係者をいっさい起用しないことになる。

5) 上記、都教育庁生涯学習スポーツ部の説明では、「『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性があり」と婉曲な表現をしている。だが、「可能性」だけで拒否の理由とすれば、根拠もなく憶測にもとづいて行動を判断することになる。そうなれば、「『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性がある」との理由で、女性学研究者はすべて都の社会教育事業から排除される結果となる。

6) もしそうではなく、他の女性学研究者は講師として適切であり、上野だけが不適切であるという判断を都がしたのであれば、その根拠を示す必要がある。

7) 上野は、他の自治体の教育委員会や人権関係の社会教育事業の講師としても招請を受けている。また解散前の東京都女性財団に対しても、社会教育事業の講師として貢献してきた。かつての上野に対する都の評価が変化したのか、あるいは他の自治体とくらべて都に上野を拒否する特別な理由があるのか、根拠を示してもらいたい。

8) 以上の都の女性学に対する判断は、女性学を偏った学問とするこれこそ偏向した判断であり、学問として確立された女性学に対する、無知にもとづく根拠のない誹謗である。 以上の反論をふまえたうえで、上記2点の質問に対する回答を、1月末日までに、文書でお送りくださるよう、要求します。以上、内容証明付きの郵便でお届けします。なお、同一の文書は主要メディアおよび女性学関連学会にも同時に送付することをお伝えしておきます。

上 野 千鶴子
東京大学人文社会系研究科教授
東京都文京区本郷7−3−1

資料1:2006年1月10日付け毎日新聞夕刊報道「「ジェンダー・フリー」使うかも…都「女性学の権威」と拒否」
資料2:上野インタビュー「ジェンダー・フリー・バッシングなんてこわくない!」『We』2004年11月号(p.2-19)
(この資料は掲載していません)

■「ジェンダー概念について話し合うシンポジウム」についてのお知らせ

開催趣意

委嘱希望講師として上野千鶴子さんが挙げられていた、市民参画で企画していた国分寺市の人権講座が、「『ジェンダー・フリー』の言葉や概念に触れる可能性がある」という理由で、委託元である東京都教育庁によって難色を示されました(昨夏)。それをうけ、国分寺市は、準備会の計画通りの内容で正式に東京都に提出して欲しいという市民側の希望を聞き入れず、受託を取り下げることにより講座じたいを中止しました。

これまで、男女混合名簿についての通達、性教育に対する一部都議に煽られての介入、「君が代」斉唱をめぐる教員処分など全国でも突出して強権的支配を教育に対して行ってきた東京都の教育行政が、生涯教育の分野でも同様な暴挙に出たわけです。

これに対してジェンダー研究者を中心に、約2000人の署名とともに都に対する抗議運動を起こしました。今回のことは、国分寺市、東京都のことがきっかけではありますが、それだけにとどまらない、性差別撤廃を目指す研究や運動に対する一連のバックラッシユに対する広汎な市民を含む対抗運動であると把握しています。

この暴挙に抗議する運動を進める中で、「これまで、ジェンダー概念についての意見交流が、市民、研究者、行政、メディア相互の間で不十分ではなかったか?」という反省が出され、遅ればせながら今回のシンポジウムを企画することとなりました。

1970年前後からのフェミニズムの活性化に影響された女性学の中心概念である「ジェンダー」は、豊かな広がりと生産性を有したものであったし、今後もそうでしょう。それだけに、いろいろな含意や用法が重層的に存在しています。しかも、90年代になってからジュディス・バトラーらの理論が出て、議論はいよいよ錯綜して、一般の理解も多様になって来ました。

それらの多様性を「混乱」と称して保守側は初等中等教育の場に介入し、さらに、生涯教育や、大学におけ「ジェンダー」研究・教育にも干渉しようとしています。そうした悪意や敵意に基づく批判はともかく、「ジェンダー」概念をめぐる多様な見方や意見に耳を傾け交流しあうことが、現在、男女平等・男女共同参画社会の進展には必要と思われます。

今回のシンポジウムでは、学界での「ジェンダー」概念についての整理を研究者がおこない、「ジェンダー・フリー」についての教育学および現場の教育者の理解や実践上の問題、市民およびシャーナリズムでの「ジェンダー」の受け取り方について、ともに語りあうために、研究者、教育者、市民にそれぞれの問題提起をしていただきます。以上で約2時間余、後は、たっぷりと時間をとって参加者全員で意見交換をしていきたいと考えています。

なおこのシンポジウムにはメデイアのみならず政治家、行政からの参加も歓迎します。

ジェンダー概念シンポジウム実行委員会
2006年2月18日

 

「ジェンダー」概念を話し合うシンポジウム

「ジェンダー概念」シンポジウム実行委員会
イメージ&ジェンダー研究会・日本女性学会共催
日時 2006年3月25日(土) 午前10時〜午後5時
会場 港区男女平等推進センター りーぶらホール
(JR田町東口徒歩4分)

事前申し込みは不要です。資料代 一人1000円。必ず受付を済ませてください。その際ご住所とお名前を書いていただきます。会場は200席なので、当日先着順で定員を超えた場合には締め切らせていただきます。昼食はご持参されたほうがいいかもしれません。

司 会 : 細谷実 赤石千衣子
開会挨拶: 米田佐代子 10:00−10:05
趣旨説明: 細谷実 10:05−10:15
パネル
[1] 「ジェンダー」概念の有効性について 江原由美子 10:15−10:35
[2] 「ジェンダー」「ジェンダー・フリー」の使い方、使われ方 井上 輝子 10:35−10:55
[3] バックラッシュの流れ — なぜジェンダーは狙われるのか 若桑みどり 10:55−11:15
[4] 「ジェンダー・フリー」教育の現場から 11:15−11:35
ランチ休憩 85分
[5] 市民と行政と学界のはざまで 丹羽 雅代 13:00−13:20
[6] ことばは生きている あるいは よりよき相互理解のために 加藤 秀一 13:20−13:40
ブレーク 20分
全体討議 14:00−16:50
閉会の挨拶: 金井 淑子

●なお、取材をご希望のメディア関係者の方は、必ず事前に事務局までご連絡をお願いします。
連絡先メールアドレス; symposium_0325●excite.co.jp (●を@に書き換えてください)(3.25ジェンダーシンポジウム事務局)

■ジュディス・バトラー講演会報告

千田 有紀

『ジェンダー・トラブル』から15年を経て、ジュディス・バトラーの初来日ということで、1月14日にお茶の水女子大学で行われた「Undoing  gender」と題する講演には、雨にもかかわらず900人が詰めかけたという。聴衆は女子学生用の小さな椅子に鮨詰めにされたが、会場は熱気に満ちていた。印象を手短に述べれば、バトラーの講演は、何かを断言し言説を固定した瞬間に、その言説が固定化した意味を壊そうとするような、絶え間ない言説の往復運動のようであった。つねに両義性に言及される彼女の論文そのものという感じだ。

印象に残ったのは「差異が強調され、レズビアン、バイセクシュアル、トランスセクシュアル、インターセックス、フェミニスト運動家の間にすら、現在は過剰な緊張関係がある」と嘆いた後に、「しかし、偽りの統一性というものは抑圧をもたらすから必要ない」と付け加えられたことである。個人的には近年、過剰に差異を強調するような思想傾向が、逆説的だが、より抑圧された者の論理を真理として認めるべきだという統一性の抑圧をもたらしているように感じられ疲れ気味であったので、少し元気が出た。差異は本来反省の契機を与えてくれ、関係を豊穣にするものであるはずなのだから。

それにしてもバトラーは色々な顔をもつひとだなと、感心させられた。今回のように平易な英語で理論的な話をするかと思えば、ニューヨーク市立大学のようなユダヤ人の牙城で、レザージャケットを着てこれぞブッチというようないでたちで、ユダヤ教徒でありながら直接的な痛烈なイスラエル批判を繰り広げ、抗議する人々が次々と退場していっても平然としていたのを見たこともある。セクシュアル・マイノリティの若い子達の前では、早口で共感に満ちた講演をしていた。

今回は日本初お目見えの、礼儀正しい講演というところだろうか。個人的にはもう少し突っ込んだことを聞きたかった。ファンタジーや欲望と実践が異なるとしたら、その両者はどのように分節可能なのか(実際には分離可能ではないから問題なのである)。マジョリティの倫理とアイデンティティの関係はどのようなものなのか。このような課題は、わたしたち自身で答えを出さなくてはいけない宿題として受け取った。

● 研究会より

■『Q&A男女共同参画/ジェンダーフリーバッシングの論点』の編集状況について

上記の冊子の出版にむけて、その構成について編集委員の間でやり取りをし、最終質問項目と本書への基本スタンスを1月半ばまでに策定した。それを踏まえて、執筆者の確定を1月末に行い、2月末までに原稿を提出していただくよう依頼文を送る予定である。原稿が出揃ったあと、編集委員が調整し、そのうえで、3月31日午前に東京で研究会をもつ(場所 国立社会保障・人口問題研究所)。そこで執筆者が意見交換を行い、5月中には出版にもっていきたいと考えている。

(伊田広行)

■会員の著書紹介

しま・ようこ 『「フェミニズム」という命の思想』 文芸社
1400円+税
2005年12月
木村涼子編 『ジェンダー・フリー・トラブル—バッシング現象を検証する』 白澤社
1800円+税
2005年12月
小林とし子 『さすらい姫考—日本古典からたどる女の漂白』 笠岡書院
1900円+税
2006年1月
Mayumi Murayama(ed.) Gender and Development :
The Japanese Experience in Comparative Perspective
Palgrave Macmillan, NY
2005

●大会案内

日 程
2006年6月10日(土) シンポジウム(13:00〜16:30)
総会(17:00〜18:00)
懇親会(18:00〜20:00)
11日(日) 個人発表、ワークショップ(10:00〜15:30)
会 場 大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)
〒540-0008 大阪市中央区大手前1丁目3−49 Tel. 06-6910-8500
京阪・地下鉄谷町線「天満橋駅」下車、徒歩5分
シンポジウム
テーマ 「ジェンダーをめぐる暴力とトラウマ
—暴力への対抗としての、フェミニズムの希望のあり方」

・個人発表、ワークショップの申し込みは3月20日までです。楠瀬または荻野まで、メールかファックスでお願いします。
楠 瀬 keiko-ku●mbox.kyoto-inet.or.jp  FAX: 075-702-3188
荻 野 mihogino●polka.plala.or.jp    FAX: 06-6850-5130
(●を@に書き換えてください)
タイトル・発表の概要(200字程度)・発表時に使用する機材をお知らせください(機材は希望にそえない場合があります)。
コンピューターは各自御持参ください。
・報告をされる方で、学生・院生・OD他、常勤職についておられない方には、学会より旅費の一部を補助する予定ですので、希望される方はその旨明記してください。
・両日とも保育室の用意がありますので、利用希望者は日と時間帯をお知らせください。
・今回は宿泊の斡旋はありませんので、遠方から来られる方は各自でホテルの手配をお願いします。

ドーンセンター案内

◆ドーンセンター TEL.06-6910-8500
◆開館時間
・午前9時30分〜午後9時30分
◆休館日
・毎週月曜日、祝日及び振替休日(ただし、その日が土曜日、
日曜日の場合は開館し、翌週火曜日が休館。またその日が
月曜日の場合は、翌火曜日の休館。)年末年始
◆交 通
・JR東西線大阪城北詰駅2号出入口から西へ550m
・京阪天満橋駅・地下鉄谷町線天満橋駅:1番出口から東へ350m
・市バス京阪東口からすぐ
◆駐車場・午前9時15分〜午後9時45分
・立体駐車場(92台)*普通車のみ(車高・車幅等制限あり)
最初の1時間まで・・・400円
超過30分ごとに ・・・200円