NewsLetter 第108号 2006年11月発行

日本女性学会NewsLetter

(*会員に送付しているペーパー版の「学会ニュース」とは内容が一部異なります)

女性学会ニュース第108号[PDF] 2006年11月発行


 

学会ニュース
日本女性学会 第108号 2006年11月

■特集 バックラッシュ関連の動き

連携して「反撃」を−「今こそいるねんジェンダー平等 いらんてそんなバッシング」シンポジウム報告

森屋 裕子

各地、各界で頻発するここ3.4年のバックラッシュの動きに対して、反論のための出版活動をし、雑誌の特集を組み、集会や抗議活動を繰り広げるという形の「反撃」が大きなうねりの形で盛り上がったのが、今年の春から夏だったのではないのだろうか。関西を中心に活動している世界女性会議ネットワーク関西(通称:ネッ関)も、「何かしなければ」の思いにかられ、シンポジウムを企画した。その成果が、7月16日にドーンセンター(大阪府立女性総合センター)で開催された「今こそいるねんジェンダー平等、いらんて!そんなバッシング」である。会場は遠方からの参加者も含めて立ち見が出るほどの人で埋まり、「何とかしよう!」という参加者の熱気が強く感じられた。
シンポジウムは、落合恵美子さん(京都大学教員)の講演「世界の分岐と『ジェンダー』をめぐる政治」における日本の「家族主義」の弊害についての指摘と「伝統的家族」にしがみつくバックラッシュ派への批判で始まり、伊田広行さん(立命館大学非常勤講師)による国内のバックラッシュの背景と意味の分析(演題「ジェンダーフリー・バッシングの背景と意味」)、鶴田敦子さん(聖心女子大学教員)によるジェンダー教育の歴史と教科書検定という権力の行使によるバックラッシュ現象の浸透の指摘(演題「ジェンダーをめぐる教育の状況とこれから」)という順序で進行した。その後、自治体行政や地方政治(森屋裕子/世界女性会議ネットワーク関西)、条例制定(二木洋子さん/高槻市市議)、性教育(野村啓子さん/中学校教諭)、労働(屋嘉比ふみ子さん/働く女性の人権センターいこ☆る)、大峰山女人禁制(大野京子さん/I女性会議なら)の現場からの報告が行われ、全体で討論した。最後に伊田久美子さん(大阪府立大学教員)が「ジェンダー主流化の動きは止まらない」としめくくり、『今こそいるねん「ジェンダー平等」宣言』(『いるねん宣言』)を全員で採択して、シンポジウムは終了した。
ネッ関は、第四回世界女性会議に参加した関西在のグループや個人が連携し、北京会議の成果を日本の政策に活かしていくことを目的に作られたロビイングネットワークである。今まで、各地の計画や条例などへの提言活動の他、横山ノック前大阪府知事のセクシュアルハラスメント事件にあたっての「怒る女たちの会」や男女共同参画社会基本法制定に際しての「エエモンつくろう男女平等基本法」の動きなどを通じて、活動家、活動グループ、専門家、地方議会議員を横断的につなぐ役割を果たしてきたが、バックラッシュ状況下では各地での個別の対応に追われ、連携した広い動きをつくることはできないでいた。今回のシンポジウムは、社会の根本枠組みをかけた攻撃への「反撃」にこそ横断的ネットワークが有効であること、「連携とパワーの結集」は「反撃」と「参画」の両面でなされる必要があることを改めて確認するよい機会となった。

福井・ジェンダー図書排除事件から

寺町 みどり

事件は、2005年11月、男女共同参画推進員からの「生活学習館の図書の内容を確認し不適切なものは排除するように」との申し出に始まる。福井県は「情報の提供は学習する上で必要である」と公式に回答し却下したが、その後153冊の排除本リストを持ち込んだ推進員の排除要求に屈し、2006年3月下旬、図書を書架から撤去した。
5月に事件の一報が届いた翌日、わたしは福井県敦賀市議の今大地はるみさんと関連の「公文書のすべて」を情報公開請求。同時に、福井県に対し「住民監査請求」と「抗議文」提出というダブルアクションを起こした。
県は153冊の図書のすべてを「誹謗中傷や人権侵害、暴力的表現などの公益を著しく阻害するものがないか」確認し、問題がないとして書架に戻した。
本を戻せば一件落着ではない。図書の排除は「思想・表現の自由および知る権利の侵害」であり、図書の内容の精査は「検閲」である。 上野千鶴子さん、江原由美子さんなど排除本リストの著者・編集者等で請求した情報公開では、5枚の「図書リスト」は「公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれがある」としてすべて「黒塗り」。わたしたちは処分を不服として、情報非公開処分取消訴訟(原告20人/代表・上野千鶴子さん)の準備をはじめた。この動きを知った福井県は153冊の図書リストを公開した。勝てると確信していた提訴は「幻の訴訟」となり、わたしたちは8月26日に予定していた提訴集会を抗議集会に変更して開催した。集会では「福井県男女共同参画推進条例」に基づく「苦情申出書」を呼びかけ、80名(42人は福井県民)で提出した。(事件の詳細は「みどりの一期一会」http://blog.goo.ne.jp/midorinet002/<福井・焚書坑儒>)。
図書排除の抗議運動は、今大地さん、上野さん、行政訴訟の準備をすすめた寺町知正さん、事務局のわたしの4人を中心にすすめてきた。
自治体の政策は「条例」が根拠であり、図書の選定に国の権限は及ばない。いかなる理由であれ、権力による図書の選別・排除は許されない。図書の排除とその後の混乱は、行政のことなかれ主義と隠蔽体質が引き起こした。わたしたちは迷走する福井県に対し、法や制度を熟知し、公的な手法でたたかってきた。
恣意的な図書排除(選別)はどこでも起こりうることだ。このような動きには、まず「図書の選別・排除は違法と認識すること」が不可欠だが、さらに、(1)女性センターなどの公正な運営ルールと図書選定の透明性の確保、(2)法・制度を熟知して市民が日常的に行政や議会の動きを監視、(3)公的手段を使って対抗するノウハウの共有、(4)指定管理者委託の「公の施設」を情報公開制度のブラックボックスにさせないこと、などが必要だと思う。情報公開制度を使って事実関係を精査し、問題を明らかにすることによって、有効な解決手段を選択することが可能になる。
わたしは学問とは無縁の市民だけれど、現場の市民運動でノウハウを培ってきた。法や直接民主主義の制度をつかった現場の実践と研究者も含めたネットワークを広げ、知恵と手法を出しあえば、各地で起きる組織的なジェンダー・バッシングに対抗できると思っている。今回の事件の成果は、その一例である。

「ジェンダーフリー・バッシング」を打ち返す出版動向

青山 薫

「ジェンダーフリー」という用語や関連図書の公の場からの排除は、2000年ごろから徐々に広がり、今年初頭には、男女共同参画局が国会質疑を受けた「事務連絡」として、この使用を地方公共団体において「使用しないことが適切」と表明した。とくに今年相次いだジェンダーフリー・バッシングに反論する書籍や記事の刊行は、このような主流政治の場でのあからさまな反動に対するフェミニズム側からの異議申し立てである。
『Q&A 男女共同参画/ジェンダーフリー・バッシング』(資料も充実。明石書店)、『「ジェンダー」の危機を超える!』(青弓社)、『バックラッシュ!』(双風社)、『ジェンダー・フリー・トラブル』(白澤社)、『ジェンダーフリーの復権』(新風社)、『ジェンダーフリー・性教育バッシング』(大月書店)、『ジェンダーフリーは止まらない!』(松香堂書店)など、バッシングに対抗する数多の出版物を読むと、ポスト植民地主義の洗礼以降、その内部の差異を認識することにこそ重きを置いてきたフェミニズム論壇の、久びさの必然的連帯が浮かび上がって心強い。裏を返せば、かく言う私などフェミニズムの中で差異の承認を渇望してきたクィア・フェミニストさえ、連帯を恐れてはいられないほどただならぬ状況になってきた、ということでもある。与党自民党の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」は、人びとの不安に依拠しスケープゴートに社会問題の責任をかぶせる典型的なプロパガンダの手法をもった、ジェンダーフリー・バッシングの一主柱だが、私たちは、この座長が首相を務める社会に生きているのだ。
ここへきて、フェミニストの間でも解釈と使用するか否かの見解が分かれている「ジェンダーフリー」という言葉に対しても、「同意はせずとも弾圧は許さない」という態度表明が続いている。「ジェンダーフリー」の再定義・再採用が始まっていると言えるだろう。
この流れの中で、フェミニズム側がほぼ共通に認識している主要課題は、(1)ジェンダーフリー・バッシングが「過激な」性教育をラベリングに利用できた理由の追及(2)政治経済再編によって新しい下層階層に位置づけられた(とくに若年男性)との連帯をどう実現するか(3)物事の論理的理解を避ける社会的傾向の中でメディアと教育にどう影響力をもつか、にまとめることができそうだ。どの課題も深遠だが、不遇をかこつマジョリティがジェンダーフリーやフェミニズムを標的としてその不満を発散させる根拠に向き合い、これを克服する道程を探すことに関わっている。とくに(1)に関連して、ジェンダーの力学との関係上、セクシュアリティが人間にとっての危険因子として扱われ続けることがいかに不毛かを再考させられる。この文化に対するオルタナティブを、フェミニストが追及する必要性を強調したい。

■幹事会活動紹介「幹事のお仕事」

*幹事会って何をしているの?幹事をまだ経験しておられない会員の方々には、幹事会が一体どんな仕事をしているのか、年間を通しての動き方など、わかりにくい面があると思います。ニュースレターでは、幹事の仕事を役割分担ごとに紹介する、新コーナーを新設することにしました。第一回は「庶務」です。

「第一回 庶務の仕事」

釜野 さおり

今期(第14期)は、海老原暁子さんと釜野が庶務を担当しています。「庶務」では、幹事会運営に関わる事務全般ならびに幹事内や幹事会と学会事務局(ジョジョ企画)間の連絡・調整をする役割を担っています。私がこの役を引き受けた2年前、どなたからか、庶務は学会の運営が円滑に進むように全体に目配りしている必要があると教えていただきました。しかし、なりたての頃は、幹事会にどういう仕事があるのか、いつ頃何が起こるのか、いつまでに何をすべきなのかといったことが全くわからず、「目配り」するどころではありませんでした。2年のサイクルを終えて、振り返ってみて初めて「これが庶務の役割かな」と認識し始めたというのが正直なところです。
日常的な仕事はシンプルで、具体的には、総会議案書の作成、幹事会の会合の準備、郵便物・問い合わせへの対応、入会申込書の扱い、学会書類の保管が挙げられます。
まず、総会の議案書は、年次大会の1ヶ月前くらいに原案を幹事のメーリングリスト(以下、ML)に流し、必要に応じて各担当の幹事に執筆・補足を依頼し、代表幹事に確認を取りながら完成させ、必要部数を印刷して大会会場に持参あるいは郵送します。
年に6回程度開催される幹事会の際には、継続審議事項、ML上での連絡事項や議論中の事項等を拾い上げ、議案の原案を作成し、MLで他の幹事にインプットを依頼し、完成させます。議案や各幹事が持参する配布資料の印刷、会場の準備、欠席した幹事への資料の送付、場合によっては会議の日程調整も行います。
郵便物やファックスは、学会事務局から転送されてくるものを取捨選択し、担当の幹事や幹事会全体に情報を流します。例えば講演会やイベントについては学会ニュース担当やホームページ担当の幹事に連絡し、他の関連資料は会議の際に回覧します。また、必要に応じて、書類への記入や各種調査への回答もします。その他の問い合わせや取材申込みについては、ML上や幹事会の席で全体に計って対応します。入会申込みに関しては、学会事務局から届く申込書・添付資料を幹事会の席で回覧し、承認の有無を学会事務局に伝え、その後の手続きをお願いします。
学会事務局との契約書、学術刊行物助成金の応募書類、入会申込書、幹事会や総会の議事録や配布資料なども庶務で保管しています。今後は、さまざまな書類をPDF化し、効率良く保管できる体制を整える予定です。また、先々の幹事引き継ぎも念頭に置き、幹事会・学会の年間スケジュールや各担当の仕事内容を明文化した、幹事用の手引きも整備して行きたいと考えています。
以上が、本学会の「庶務係」の仕事です。仕事の性質上、他の幹事の協力がなければ動きのとれないことが多いのですが、それぞれご多忙な中、適宜対応してくださるおかげで、今まで続けてくることができました。力量不足で、なかなか全体の目配り役をこなすまでには至りませんが、会員の皆様には、今後とも温かな目で見守っていただければ幸いです。

■研究会活動報告と次回のご案内

「暴力AV研究会」

二瓶由美子

日本女性学会の研究会補助制度による補助を受けて、「暴力AV研究会」を2006年6月25日(日)、東京都内において開催した。参加者は8名と少人数だったが、活発な質疑応答がなされ、今日の暴力AV制作現場の実態を知る有意義な機会となった。
今日、「レイプもの」「監禁もの」と呼ばれる、女性への様々な虐待を映像化したビデオやDVDの存在とその社会的影響について問題視する声が広がりつつある。実際に、AV撮影現場における集団強姦と拷問・虐待によって重い傷害を受け、後遺症によって車椅子生活を余儀なくされた被害女性の訴えによる事件(現在公判中)も起きている。そこで、そのAV会社のAV制作現場にライターとして居合わせ、壮絶な現場の暴力を目の当たりにして問題提起したMさんの経験、AV女優と呼ばれる女性たちの労働の実態についてお聞きした。現場の映像を使用しての報告により、参加者は構造的な暴力の存在について詳細な事実を知ることになった。「つぶす」という表現で、「使い古されたAV女優」が暴力AV出演を最後に映像から消えていく現実は、女性の身体と尊厳が搾取されている実情を明らかにした。
また、11月24日(金)午後6時から、新たに、「暴力AV研究会その2」を企画している。この回では、AV女優派遣事務所のマネージャーから、AV女優と呼ばれる女性たちの派遣労働の実情をお聞きする予定だ。女性学会会員のみなさまにも是非参加していただき、問題を明らかにしたいと考えている。
問い合わせ先:二瓶由美子 y-nihei●ssjc.ac.jp(●を@に書き換えてください)

お 知 ら せ

「お知らせ」欄は幹事会および会員等からの公共性の高い情報を掲載します。
掲載希望はニューズレター担当者までご連絡ください。
ニューズレター担当:
伊田久美子:idak●hs.osakafu-u.ac.jp
木村 涼子:kimura●hus.osaka-u.ac.jp
(●を@に書き換えてください)

■会員主催の研究会募集のお知らせ

(学会幹事会)

<応募要件>

  • 研究会の趣旨が女性学会の趣旨に適っているもの。
  • 少なくとも会員に対して、公開の研究会であること。
  • 研究会のタイトル、趣旨、企画者(会員個人・会員を含むグループ)、開催場所、開催日時、研究会のプログラム、全体の経費予算と補助希望額(2万円以内です)が決定していること。なお、未決定部分は少ないほど良いのですが、場所・プログラム・経費については予定=未決定の部分を含んでいても結構です。
  • 学会のニュースレター・ホームページに載せる「研究会のお知らせ」の原稿(25字×20行前後)があること。研究会の問い合わせ先を明記すること。
  • 研究会終了後に、研究会実施の報告文を学会のニュースレターとホームページに書いていただきます(研究会補助費は、その原稿提出後に出金いたします。)
  • 学会総会での会計報告に必要なため、支出金リストと、総額での企画者による領収書
  • 申し込みは、広報期間確保のために、原則として開催の3カ月前までに、研究会担当幹事まで、お願いいたします。詳細のお問い合わせも、研究会担当幹事まで。

研究会担当:伊田広行:田嶋陽子
連 絡 先:henoru●tcn.zaq.ne.jp (●を@に書き換えてください)

■会員からの寄贈図書

寄贈本で会員が著者もしくは編者である単行本新刊書誌情報を掲載します。

城西国際大学ジェンダー・女性学研究所 編 『ジェンダーで読む<韓流>文化の現在』 現代書館
2006年8月
1500円(税抜)
若桑みどり、加藤秀一、皆川満寿美、赤石千衣子 編著 『「ジェンダー」の危機を超える!徹底討論!バックラッシュ』 青弓社
2006年8月
1600円(税抜)
堀江有里 著 『「レズビアン」という生き方—キリスト教の異性愛主義を問う』 新教出版社
2006年9月
2200円(税抜)
水田宗子、長谷川啓、北田幸恵 編 『韓流サブカルチュアと女性』 至文社
2006年9月
2,381円(税抜)
永原浩行、れいのるず・秋葉・かつえ 編 『ジェンダーの言語学』 明石書店
2004年12月
2,500円(税抜)
唯物論研究協会 編 『ジェンダー概念がひらく視点:バックラッシュを越えて』 (唯物論研究年誌第11号) 青木書店 4,000円(税抜)

■学会誌『女性学』の販売促進にご協力ください

第14期幹事会学会誌販売促進担当幹事 武田万里子

かねてより学会誌『女性学』の売れ行きが低迷しており、学会財政は厳しい状況が続いています。在庫も拡大し、倉庫保管料を新たに負担せざるをえない状況になっています。女性学の普及のためにも、会員の皆様に、学会誌の購入・販売促進にご協力をお願いいたします。

  1. 学会誌のバックナンバーをお持ちでない方は、同封の「注文書」で、新水社に直接ご注文ください。割引があります。
  2. 勤務校などの図書館に女性学のバックナンバーがそろってない方は、欠号をご購入ください。
  3. 現在創刊号が品切れです。創刊号を復刻し、創刊号から13号まで全号揃セット定価31000円(直接販売の場合、割引あり)で販売予定です。一定数の予約注文が取れ次第、復刻いたします。創刊号が復刻されれば、バックナンバーを図書館などにセット購入していただける方は、同封の「予約注文書」を、学会事務局(Fax:047(370)5051)まで、お送りください。

会員の皆様の、ご協力をお願いいたします。

■2007年度日本女性学会大会予告

日 時:2007年6月9日(土)、10日(日)
場 所:法政大学(市ヶ谷キャンパス)
*詳しくは次号ニュースレターでお知らせします。