NewsLetter 第109号 2007年2月発行

日本女性学会NewsLetter

(*会員に送付しているペーパー版の「学会ニュース」とは内容が一部異なります)

女性学会ニュース第109号[PDF] 2007年2月発行


 

学会ニュース
日本女性学会 第109号 2007年2月

◇次回大会予告

2007年6月9日(土)・10日(日)

会場

法政大学 市ヶ谷キャンパス

東京都千代田区富士見2-17-1
JR総武線「市ヶ谷駅」または「飯田橋駅」から徒歩10分
東京メトロ:市ヶ谷駅または飯田橋駅下車徒歩10分
都営新宿線市ヶ谷駅徒歩10分
都営大江戸線飯田橋駅徒歩10分

シンポジウム

バックラッシュをクィアする
—性別二分法批判の視点から—

・大会日程

1日目 6月9日(土)
13:00〜16:30(予定) シンポジウム
その後総会、懇親会
2日目 6月10日(日)
10:00〜12:00(予定) 個人研究発表
13:00〜15:00(予定) ワークショップ

* 保育を予定しています。詳細は次号をご覧ください。

個人研究発表とワークショップ申込受付について

タイトルと発表の概要(200字程度)・発表時に使用する機材(機材は希望にそえない場合があります)を記載して、3月20日までに、ニューズレター担当の木村涼子・伊田久美子まで、メールかファックスでお申し込みください。
ワークショップ :木村涼子 kimura●hus.osaka-u.ac.jp fax:06-6879-8115
個人研究発表 :伊田久美子 idak●hs.osakafu-u.ac.jp fax:075-791-9273
(●を@に書き換えてください)

* ワークショップは、参加者との共同作業でテーマを発展させていく取り組みであり、個人報告とは性格の異なるものです。

* 個人研究発表は、共通テーマでのパネル応募も可能です。人数は3人以上とします。各報告の発表時間の公平性と質問の時間を十分にとることにご留意いただき、時間の配分、司会者等を申込者で設定してください。

・大学院生等への旅費補助について

ワークショップ、個人研究発表をされる方で、学生・院生・OD等、常勤職に就いておられない方には、学会より旅費の補助をします(総額10万円を、人数と距離に応じて配分しますので、補助金額は未定です)。希望される方は、報告申込のさい、「旅費補助希望」と明記してください。
詳細は次号をご覧ください。

◇ 大会シンポジウム趣旨説明

パ ネ リ ス ト :井上輝子、クレア・マリィ、風間 孝
コ メ ン テ ー タ ー :金井淑子、田中 玲
コーディネーター・司会 :釜野さおり、伊田久美子

ジェンダーフリー・バッシングには、「男女共同参画」や「ジェンダー」概念への反感だけでなく、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーへの嫌悪感(ホモフォビア、レズボフォビア、バイフォビア、トランスフォビア)が根深く含まれている。このことは、バッシングが性的少数者を含むセクシュアリティのありかたを攻撃の対象としていること、すなわち、性別二分法規範と相容れない性のありかたやその規範を疑問に付す実践に対する攻撃であることを示しているといえるだろう。

しかしながら、バッシングに対するフェミニズム側からの対抗言説は、これらの「フォビア」を分節化し、そのうえで十分な批判や反論を行ってきただろうか。また、あえて触れぬことで、「フォビア」を温存する傾向はなかっただろうか。「フォビア」や「セクシュアリティ」への対応の不十分さは、ある意味でバックラッシュに対抗する上での「アキレス腱」であり、そこをバックラッシュ側につけこまれてきたとも考えられる。

また、ジェンダーフリー・バッシングとほぼ同時期に生起した「過激な」性教育バッシングは、近年の若者の性の「乱れ」や、性的少数者に焦点を当てた教育実践への批判をつうじておこなわれてきた。性教育バッシングの顕在化に対して行政や学校現場では、これらの動きを意識するあまり、これらの教育実践を規制しようとする風潮も生じている。「過激な」性教育バッシングもまた、若者の性や「フォビア」を含むセクシュアリティに関して議論が不十分なところを狙って行われているのである。性教育バッシングに対抗するには、若者の性や「多様な」性のありかたを含んだ、セクシュアリティそのものをどのように認識していくのかという根本的な議論が必要とされている。

ジェンダーフリー・バッシング、そして「過激な」性教育バッシングからなる一連のバックラッシュに対抗するには、ジェンダーとセクシュアリティを切り離すことなく、その関係性について改めて考え、認識を深めることが必要とされているのである。

本年度の大会シンポジウムにおいては、クィア・スタディーズのアプローチ、すなわちジェンダーとセクシュアリティの非因果的であるが切り離すことのできない関係を問い、かつジェンダーやセクシュアリティの認識における二元論的な図式(性別二分法規範)を問うていくアプローチを踏まえつつ、(1)バックラッシュにおけるジェンダーとセクシュアリティの絡み合いを正面から取り上げ、(2)ジェンダーへの焦点化に偏りがちであったバックラッシュへの対抗言説にセクシュアリティの視点を導入する意義を確認し、(3)そのことがバックラッシュに反撃するうえで不可欠であることを共有していきたい。

(風間 孝)

◇教育基本法「改正」に関する緊急声明についての報告

昨年11月に教育基本法「改正」が強引に進められた。事態を憂慮した第14期幹事会は、女性学研究の立場からこの「改正」に関する緊急声明を発表した。

以下に声明文全文を掲載し、合わせて教育基本法「改正」問題に関する動向を報告する。

(幹事会)

教育基本法「改正」に関する緊急声明

11月16日、教育基本法改正案は、野党欠席という異常事態の下、自民・公明の連立与党による単独採決によって衆議院を通過し、現在、参議院での審議に入っている。教育に関わる憲法とも言われる重要な法律の改正が、十分な審議を尽くさないままに遂行されようとしていることに対して、日本女性学会はここに声明を発するものである。

今般の教育基本法「改正」の与党案については、実に多くの個人および団体から疑問や反対意見・声明が提出されており、議論すべき点は多方面にわたっている。改正案には、日本女性学会が結成の柱とする「あらゆる形態の性差別をなくす」という観点からも、看過できない種々の問題点がふくまれている。

まず、現行第5条「男女共学」(「男女は、互いに敬重し、協力しあわなければならないものであって、教育上男女の共学は、認められなければならない」)の削除は、教育分野における男女平等の根幹をゆるがすものである。この条項は、戦前の学校教育システムが男女別学・別学校体系により女性差別を制度化していたことへの反省に基づき、男女共学の基本を謳ったものである。現在もなお、高等教育進学率における男女間格差や、後期中等教育および高等教育での専攻分野における男女比率のアンバランスなど、就学経路上の男女平等を確立する課題は山積している。女性学研究は、そうした就学経路上の男女格差が社会的・文化的に生み出されるプロセスや、教育における男女間格差が雇用などの性差別の問題とつながっていることなどを明らかにしてきた。第5条の削除は、それらの課題解決の進展を阻むのみならず、男女特性論に基づいた公立の別学校を新たに誕生させるなど、男女をことさらに区別した教育を展開させる誘因になるのではないかと強く危惧する。

その危惧は、現行法には存在しない「家庭教育」と「幼児期の教育」という二つの新設条項についてもあてはまる。「父母その他の保護者」の「子の教育」に関する「第一義的責任」をさだめた第10条「家庭教育」と、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」と謳った第11条「幼児期の教育」は、教育や福祉の分野を、国家の責務から「家庭」の責務に転換していく方向性をもつものであり、さらには「母性」や固定的な性別役割分担の強調につながる危険性がある。

一方、改正案は、第2条「教育の目標」第3号(「正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」)の中に、現行法には含まれていない「男女の平等」という理念を掲げている。しかし、そもそもこの第2条そのものが、国民に求められる「徳目」をさだめる性格をもち、私たちの精神的自由を侵す危険性をはらんだものである。男女平等は国民にとっての権利であり、名宛人を国家とする教育基本法においては、「教育上男女の平等は保障されなければならない」といった国家の責務をさだめる条項として位置づけられるべきである。にもかかわらず、改正案における「男女の平等」は、国民にもとめられる「徳目」として掲げられており、その位置づけには大きな疑問が残る。

同じく第2条第5号(「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」)は、愛国心を強制するものとして幅広い抗議を巻き起こしているが、この条項については性差別の撤廃という観点からも、重大な問題がある。この条項に含まれる「伝統と文化の尊重」という文言は、近年のジェンダー・フリー・バッシングのなかでさかんに使われているフレーズであり、「伝統や文化」といった多義的でしかあり得ない概念によって定義された「教育の目標」条項が、今後政治的に利用されていく可能性は極めて高い。その可能性は第2条全体に対して言えることであり、この条項と、現行法第10条「教育行政」を「改正」した第16条第1項(「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」)とが連動することにより、「教育の目標」に沿わないと解釈された教育実践や教育運動は、「不当な支配」に相当するものとして排斥されていくだろう。現行の教育基本法第10条が、戦前の反省を踏まえて目指した、国家権力の中枢に近いところに位置する「官僚とか一部の政党」(昭和22年3月14日衆議院・教育基本法案委員会・政府委員答弁より)による「不当な支配」の排除とは、まったく逆の方向への「改正」と言わざるを得ない。

多くの課題を残したまま、広範な抗議の声を無視して、政府与党は、近々12月8日にも教育基本法改正案の成立を目指している。日本女性学会は、性差別の撤廃という設立の趣旨を貫く立場から、今般の教育基本法「改正」の動きに強く抗議するものである。

2006年12月 1日
日本女性学会 第14期 幹事会

◇教育基本法「改正」の経緯とこれから

船橋 邦子

2006年12月15日、1947年教育基本法は第165臨時国会で死刑宣告されてしまった。防衛庁昇格法とともに国の方向性を決める重要な法案が「改正」の理由も不明、内容の討議はほとんどなされず、人々の理解が得られないまま、数に物を言わせて成立した。いじめゼロ報告、未履修問題、タウンミーティングでのやらせ問題と続出する常識を逸した事態に対して国会答弁で他人事のように「規範意識の欠如」を連発した文部科学大臣は、その原因が47年教育基本法にあるとして葬り去った。それにしても教職員組合も市民グループも反対運動は本当によく頑張ったと思う。11月初めから国会前でハンストに入った人々を含め国会前集会には毎日1000人以上が参加したしリボンとキャンドルによる「ヒューマンチェイン」には5000人が集まった。(ただしこの動きが統一されなかったのは残念に思う)しかしこれらの反対運動についてマスメディアは徹底して無視し続けたために、多くの市民は、この問題の重要性に気づいていなかった。また私は何度か国会傍聴をしたが議論の内容は本当にお粗末、ただの時間稼ぎ、真剣さもなく国民を愚弄していた。とくに衆議院特別委はひどかった。民主党が「改正」を前提としていたことは今回「改悪」を許した最大要因だった。参議院特別委では、国会外での反対運動の広がりとやらせ問題などの実情が明らかになるにつれ容易に採択というわけにいかなくなった。12月5日、参議院特別委員会での神本美恵子さんは日本女性学会幹事会の「緊急声明」を手に「改正」案は、明らかにジェンダー平等政策の撤退であることを指摘した。しかし初めに成立ありき、急速に大きくなってきた反対の声は黙殺された。

今後の課題として現憲法下では新法は違憲立法であることに間違いない。廃案にしていくためには新法への批判的世論を高めることが重要だ。また1月末に始まる通常国会に学校教育法をはじめ関連法案が国会に提出されることになる。新法第17条教育振興計画を策定にも取り掛かるだろう。新法の実効性をもたせないために関連法案成立をさせないこと、監視する運動も必要。しかしなんといっても憲法改悪を阻止していくために統一地方選、7月の参議院選で安倍首相を退陣させること、そのための野党の連携が今、一番必要だと痛感している。今回のように数の暴挙を許さないために。

■ 幹事のお仕事(2)ニューズレター

−幹事会活動の実際を担当幹事が紹介します。

ニューズレターは年間4回発行します。学会大会や総会の案内、報告がメインの記事となります。大会が年1回となってからは会員の研究会への助成を行っていますが、そうした研究会のお知らせや報告、それに会員に有用な情報の提供や会員相互の情報交換の場として機能することを心がけております。

もうひとつこの間心がけているのは、幹事会が何をやっているかを会員にできるだけお知らせすることです。そのために数年前から幹事会議事録を掲載しております。また今期は「幹事のお仕事」というコラムを設けて、学会運営のさまざまな事務仕事を紹介しています。

メールのおかげで、執筆者や印刷所との原稿のやりとりは本当に楽になりました。それでもときどきは、お世話になっている京都の印刷所へ出向くことも必要です。原稿を集め、印刷所に送り、校正のやりとりをし、一段落するとまもなく次の号の準備をしなければならない時期がきます。けっこう1年中仕事の切れ目がない状態です。

幹事会だけでなくできるだけ会員のみなさんに書いていただくことを目指しています。原稿の依頼があれば、是非ご協力くださいますよう、お願いいたします。

(伊田久美子)

■研究会報告「暴力AV研究会」   11月24日

11月24日金曜日都内で開かれた暴力AV研究会は、日本女性学会から1人の参加者を得、APP研究会会員の参加もあり、企画者の司会とインタビューによる有益で濃密な2時間強の時間をもつことができた。報告者の誠実で詳細な報告により重要な事実をたくさん知ることができた。とくに、プロダクションとメーカーの役割の違いよくわかり、大きな収穫があった。
事前に用意した質問への丁寧な答えは、一般には知られていないことが多く、AV業界の実態と問題点が、現場の方から網羅的に語られた、初めてのものになると思われる。

(二瓶由美子)

*研究会(会員企画)を随時募集しています
研究会担当幹事にお申し込み下さい。
伊田広行(henoru●tcn.zaq.ne.jp)(●を@に書き換えてください)

■寄贈図書紹介

狩谷あゆみ編 『不埒な希望 ホームレス/寄せ場をめぐる社会学』 松籟社 2200円
ベル・フックス/里見実訳 『自由の実践としてのフェミニズム教育 とびこえよ、その囲いを』 新水社 2800円+税
岩淵宏子、長谷川啓 『愛・性・家族』 東京堂 2200円+税
田間泰子 『「近代家族」とボディ・ポリティックス』 世界思想社 3,200円+税
女性の家HELP(編) 『希望の光をいつもかかげて:女性の家HELP20年』 日本キリスト教婦人矯風会 1000円
杉浦郁子・野宮亜紀・大江千束(編著) プロブレムQ&A
『パートナーシップ・生活と制度』【結婚、事実婚、同性婚】
緑風出版 1,700円+税

お知らせ

柳澤厚生労働大臣の「産む機械」発言に対する抗議声明文を、会員の大本良子さんのご協力を得て2月2日に幹事会名で提出しました。声明文は学会ホームページに掲載されています。ニューズレター次号にも掲載する予定です。

<再 掲>
学会誌『女性学』の販売促進にご協力ください

第14期幹事会学会誌販売促進担当幹事 武田万里子

かねてより学会誌『女性学』の売れ行きが低迷しており、学会財政は厳しい状況が続いています。在庫も拡大し、倉庫保管料を新たに負担せざるをえない状況になっています。
女性学の普及のためにも、会員の皆様に、学会誌の購入・販売促進にご協力をお願いいたします。

1. 学会誌のバックナンバーをお持ちでない方は、同封の「注文書」で、新水社に直接ご注文ください。割引があります。
2. 勤務校などの図書館に女性学のバックナンバーがそろってない方は、欠号をご購入ください。
3. 現在創刊号が品切れです。創刊号を復刻し、創刊号から13号まで全号揃セット定価31000円(直接販売の場合、割引あり)で販売予定です。一定数の予約注文が取れ次第、復刻いたします。創刊号が復刻されれば、バックナンバーを図書館などにセット購入していただける方は、同封の「予約注文書」を、学会事務局 (Fax:047(370)5051)まで、お送りください。

会員の皆様の、ご協力をお願いいたします。

研究会のお知らせ

2007年の大会シンポジウム『バックラッシュをクィアする〜性別二分法批判の視点から〜』に向けて、発表予定者を中心に、事前研究会をしたいと思います。
参加はどなたでも可能です。なお参加希望者は、事前に研究会担当幹事の伊田広行( henoru●tcn.zaq.ne.jp )あてにご連絡ください。(●を@に書き換えてください)
なお、当日の駆け込み参加もOKです。

発題予定
風間孝「若者のセクシュアリティと性的マイノリティ—性教育バッシングの影響を考える—」
他1、2名
日時:2007年3月31日(土曜日)10時から12時半
場所:国立社会保障・人口問題研究所(日比谷国際ビル6階)