研究会報告:「男女共同参画をめぐる論点と課題」第2回

2002年12月14日  お茶の水女子大学   出席者 23 名

話題提供者3名の反論をたたき台にワークショップ形式で展開した。参加者23名のなかには初めて出席という人も多くいた。地方自治体職員、教員、活動家、弁護士、研究者など多様な立場の参加者が自由討議した。

以下に各報告の要点と討議について概要を紹介する。

まず国信は、専業主婦という生き方をどのように考えるかについて反論の論点をレジメにそって報告。
その論点は

  1. 無償労働男女共同分担の必要性:家事、育児、介護という仕事は重要な役割であり、その役割を担う人は男女ともに必要。
  2. 経済的責任分散:男性のみが家計を支えるという生活では景気低迷のおり支えきれない。また男性にとっても過重となる。
  3. 次世代育成は生きがい:家事、子育ては男性にも楽しいものであり、 生きがいとなる。あらたな生活の側面を発見・学習できる役割である。子供との親密な関係を形成できる。
  4. 年収103万円以下の働き方がトクという言説のウソの説明:パート主婦という生き方については103万円の壁が女性の低賃金労働にとどめている。また税金免除、年金積み立て免除をされている人(専業主婦・年収103」万円以下のパート主婦たち)が1200万人もいることは今後の日本の福祉政策にとって資源不足の原因となる。すでに各種専業主婦、年収103万円以下の収入の既婚女性への控除などは削減の政策変更が決定されている。女性の労働機会の拡大、平等な社会保障の充実が必須。

次に細谷が「〜らしさ」と伝統の問題について報告。
現在ある二分化された男女の「?らしさ」に100%当てはまるような人は稀だ。子どもを男/女らしさのどちらかの鋳型にはめ込むことは無理がある。またジェンダー・フリー教育は男女の別を否定するという保守派は批判しているが、スポーツや活動を男向け・女向けと固定的に決めるのではなく、双方が選べるようにすべきであるとしているだけである。子どもが苦手なことを伸ばすのも教育だが、本人の状態の見極めを押し付けをすると、子どもの自信を破壊したり、学校嫌いにしてしまう。やさしさ、勇気など現在において望ましい性質は、男女の別なく教育してゆくことを目指すべきである。
フェミニズムは伝統的文化、慣例を破壊しようとしているという保守派の批判に対しては、伝統自体が多様な変化をへているものであり、時代に適した変容をしつつ受け継がれてきているものである。伝統をまったく変えてはならないというのは、逆に伝統を全否定することと同様に不適切だと反論した。

最後に橋本は性と生殖の自己決定権について、それは女性が不利になるようなフリーセックスを推進することではなく、そのような議論は誰もしていない。自己決定とは女性が望まない性行為、妊娠、出産を強制されないことである。本人とパートナーとの合意のもとに生殖、性行為があることが重要なのである。援助交際など18歳以下の少女による性的サービスはたとえ少女が自己決定し望んだとしても男性によって買われた性には少女側に自己決定はない。したがって性の自己決定を認めると少女が援助交際にはしるという論理はまったくの曲解、誤解である。中学生に性教育を実施することは性行為を10代の子供たちにしろと勧めることではなく、性のあり方、意味、を正確な情報にそって教えることである。「ラブ・アンド・ボディ」という性教育の冊子も性について誤った情報が蔓延するなか、正確な情報、子どもの権利を擁護できる情報をつたえることが主旨となっている。

自由討議のなかで指摘された点の一部を以下に紹介する。
性別特性論については体力差の両性の分散グラフの重複で説明すると客観的でかつ男女が重なっている部分が多いことが証明できる。他にも各種統計データでわかりやすくイラスト化するとよい。
少子対策として働く女性は子どもを産みたがらないという言説には、出産経験のある女性では有職女性の方が子ども人数合計特殊出生率は1.98人、専業主婦で子供を産んでいる人は1.91人というデータで安定的に仕事をもっている女性は子どもを安心して生めるということを紹介する。また専業主婦の方に子育て不安が強くあるという調査データも周知するとよい。離婚のときの親権要求では近年若い父親が幼児の親権を要求する例も増えてきている。
事故などで加害者による賠償金計算における命の経済換算において女性の命が安く換算される。この逸失利益についても男女平等化の判断がでてきているが、現在はまだ格差をつける逸失利益換算と両方が並存している。家事労働の値段もふくめれば男性より高くなるはず。しかしそのような換算方法はとられていない。
一定数の女性労働者は今、フルタイマーだが、できるだけ早く仕事やめて専業主婦になりたいといっている。それもひとつの選択である。公務員には労働継続している女性が多くいる。私企業では産んだら退職という事例が多い。保護対策の充実している、育児休業などとりやすい職場では女性が子育てしながら就労継続している。仕事と子育ては両立するものであることを事例をあげて紹介する。育児のために仕事やめたということがさらに母親のストレスともなりうる。中高年男性の自殺率で日本は世界2位である。
夫婦別姓支持論、家族経営協定支持論、女性差別撤廃条約の遵守について項目別に簡略に説明する。プライバシーの保護は重要であり、個人の生き方を強制的に変更させるようなことをめざしているのではない。余計なお世話、おせっかいではなく、いままでとは異なる生き方を選択する人々を不利にしない、新たな政策を推進することが重要である。個人としての選択は自由である。選択肢をふやすことが原則。
国際的動向は開発途上国の女性のことであり、日本女性は別という言説がある。
全体として肯定的なメッセージを出す。具体的データをだす。説明の言説レベルをそろえる。性別の偏りのない社会をつくることが政府方針であることを明言する。政府自体がフラフラしないように「しっかりしてよ」といいたい。政府内部の風潮として教育基本法の改正があったのだから、杞憂かもしれないが、男女共同参画社会基本法の改正論議もありうる。