2020.10.8
日本学術会議会員任命拒否に関する声明
日本女性学会第21期幹事会
10月1日、日本学術会議が新会員として推薦した105名の研究者のうち6名が、理由を表明されることなく内閣総理大臣により任命されなかったことが明らかになりました。任命拒否の理由はいまだ明らかにされていませんが、研究に対する評価に関して学術会議の推薦者以上に合理的な判断をできる者がいるのかと考えれば、拒否の理由はきわめて「恣意的」なものであり、日本学術会議の独立性に対する政府の干渉・介入と考えざるを得ません。
今回任命を拒否された研究者は、すべて第一部「人文・社会科学」に属すべき研究者であり、人文・社会科学研究に従事する研究者を多く抱える日本女性学会としても容認できない事態です。
1984年の日本学術会議法改正直後に出された「日本学術会議憲章」では、同会議は「地球環境と人類社会の調和ある平和的な発展に貢献することを、社会から負託されている」として、その義務と責任を果たすために、「公共政策と社会制度の在り方に関する社会の選択に寄与する」ような勧告や見解の提示(同憲章第3項)、あるいは「次世代の研究者の育成および女性研究者の参画を促進」(同憲章第4項)する活動をおこなうものとされています。
この「憲章」の趣旨にのっとり、日本学術会議は、ジェンダー問題に関して2020年9月にも以下の三つの提言を発出するなど極めて活発に提言を行ってきました。
(1)提言「「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて―性暴力に対する国際人権基準の反映―」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t298-5-abstract.html
(2)提言「性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ)―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けてー」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t297-4-abstract.html
(3)提言「社会と学術における男女共同参画の実現を目指して―2030年に向けた課題―」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t298-6-abstract.html
このような提言は時に、政府の政策・制度の不備、不作為を厳しく批判するものでもありました。
しかしながら、現憲法の第23条において「学問の自由は、これを保障する」と学問の自由が保障されているのは、明治憲法下において政府により学問の自由が侵害された結果、無謀な戦争により多くの人々の犠牲をもたらしたことへの反省をもとにしたものです。この意味において、学問の自由とは、政府に対する一定の批判力を持つことにこそ、その意義があるとも言えるでしょう。
日本学術会議に対するこのたびの政府の人事介入は、政府による政策・制度の不備、不作為を指摘する活動を鈍らせ、戦後多くの努力のもとに培ってきた民主主義と人権尊重という価値観を否定する危険性をはらむものです。また、その結果として、社会的少数者の置かれた環境や社会的状況の改善が、一層困難となることも懸念されます。
わたくしたちは、今回の日本学術会議会員被推薦者に対する任命拒否という事態について、政府がその拒否の「理由」を明らかにすることを求めます。そして、「学問の自由」を保障した日本国憲法や日本学術会議法など国内法に則り、その「理由」の正当性の欠如が明らかになった場合には、速やかに被推薦者6名の任命を行うとともに、日本学術会議および学問領域に対する政府からの「独立性」を改めて明言されるよう要求します。