第三次男女共同参画基本計画・中間整理に対する要望書

日本女性学会第15期幹事会一同

はじめに

わたしたちひとりひとりが、二分法の性別にこだわることなく、どれだけ充実した生活を互いに協力して平等に築いていくことができるのか。ジェンダー平等な社会の実現は、21世紀の日本社会において最重視されるべき課題の一つです。男女共同参画関連の施策は、もともとは女性が受けている社会的不利益の解決のための女性施策から出発しています。社会経済的な面での男女間の格差は依然として存在していますし、暴力および性暴力の被害が女性に集中していることも近年ますます明らかになっているところです。女性が置かれている状況に注目することによって、女性と対比的な位置にある男性もまた、現在の固定的な役割分業や性別特性論を強制する社会システム下で抑圧されている実態が浮かび上がってきています。
1979年設立の日本女性学会は、30年以上にわたり、女性および女性と男性との関係に関わる諸問題について、さらに「女性と男性との関係の問題」という二項対立によって隠されてしまう他の格差について、学際的研究を蓄積してきました。そして、人間性・人権・多様性を尊重する立場から今日の社会状況を変革することを目指してきました。日本社会が抱える男女平等に関する課題の解決のために、これを基礎とした人間の平等にかんする課題の解決のために、当事者主義に立ち、自らと他者の尊重を同時に追求する視点を備えた女性学およびジェンダー研究と教育が果たすべき役割は重大であると考えます。
にもかかわらず、女性学・ジェンダー研究は高等教育機関においていまだ周辺的な位置にとどまり、女性学・ジェンダー研究の知見を踏まえた初等・中等教育における教育実践も十分に発展してきているとは言い難い状況があります。とりわけ、21世紀初頭に隆盛した、誇張や曲解にもとづく「過激な性教育」「ジェンダーフリー教育」批判によって、子どもたちの人権を尊重する教育/ジェンダー平等について考えさせる教育の実践が困難な状況が生まれていることは、危急に改善されるべき問題と考えます。また、女性学・ジェンダー研究にたずさわる者の研究機関への就職難、とりわけ若年層にひろがっている任期付き雇用など不安定な雇用状況の拡大という問題も存在します。
女性学およびジェンダー研究の社会的意義の大きさに比べて、その発展が不十分なままにとどまっている実態を鑑みて、第三次男女共同参画基本計画には、男女共同参画社会の実現のために不可欠な学問的営為である、女性学・ジェンダー研究をサポートする施策をぜひとも盛り込んでいただきたいと考えます。

以下、具体的に5つの項目について要望します。

1)労働教育の充実について

「第4分野 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保」に関して、「(9)(原文は○の中に9)男女雇用機会均等法等関連法令、制度の周知については、労使を始め社会一般を対象として幅広く効果的に行うとともに、学校においてもその制度等の趣旨の普及に努める」とありますが、いま女性がおかれている雇用環境からみて、このような教育では不十分だと考えます。単なる制度趣旨の周知にとどまらず、労働者としての権利の具体的内容や、組合や労働基準監督署等の相談・申告・係争の諸方法にまで踏み込んだ、実効性ある労働教育の実施を求めます。また、20歳代でも女性の非正規雇用率が6割を超える現在、正規雇用に就いていることを前提とした労働教育ではなく、非正規雇用者にも有用な情報が得られる教育内容であることが、女性のさらなる貧困化を防ぐ上で重要だと思います。そうした視点からの労働教育を定義し、学校教育に導入する必要性を明記することを要望します。

2)就学経路上の格差是正について

「第10分野 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実」に関して、「大学、大学院への女子学生の進学率も上昇しているほか、女性教員の数が増加した」と現状を肯定的に評価する記述がありますが、四年制大学にしぼると男女間格差は依然として残っていますし、大学院への進学率は女子のみならず男子についても高くなっており、男女を比較するとそこでも男女間格差は明白です。第二次基本計画で明記している「ミレニアム開発目標」の実現は、2015年までにすべての教育レベルにおける男女格差を解消することを達成目標としています。2015年までわずかの時間しか残されていません。よって、すべての教育レベルの格差解消を実現するために、四年制大学や大学院進学、従来女子が少ない科学技術分野の進学に関して、女子対象の奨学金やクォーター制度の導入など、積極的是正策(アファーマティブ・アクション)を取り入れることを具体的な施策として盛り込むことを要望します。

3)女性関連施設の積極的位置づけについて

「第10分野 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実」に関して、「1 男女平等を推進する教育・学習」には、(6)において独立行政法人国立女性教育会館の役割が」位置付けられていますが、各地の女性センター等女性関連施設の位置づけがありません。「第13分野 地域における男女共同参画の推進」においては地域活動の拠点として位置付けられていますが、これだけでは各地域の女性センターが、地域における学習活動のファシリテーター的役割や、各地域に密着したジェンダー統計の収集や研究の拠点としての役割を、担う必要があるということが不明確になってしまいます。(5)の「社会教育において・・・醸成されるよう、地域における学習機会の提供を促進する」との文言を、「醸成されるよう、各地方自治体の女性センター等女性関連施設を活用し、地域における学習機会の提供を促進する」に変更するなど、女性関連施設の積極的位置づけを盛り込むことが必要です。
現在、女性・男女共同参画センターの多くが、ジェンダー平等・男女共同参画社会形成に専門的知識技能をもつ職員を、不利な条件の非正規・非常勤雇用し、それら職員に事業・サービスの大部分を依存している実態があります。また「ジェンダー平等、男女共同参画社会形成に専門的知識技能」に基準や制度的裏付けがないことも大きな課題となっています。地方自治体の男女共同参画社会形成の拠点施設である女性・男女共同参画センターで、学習研修、相談、情報、調査研究等の専門業務にあたる職員の雇用条件の改善と雇用・任用に係る制度整備を要望します。

4)女性教育・研究関係者の不安定雇用状況の改善について

「第10分野 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実」および「第11分野 科学技術・学術分野における男女共同参画」では、それぞれ「I これまでの施策の効果と・・・十分に進まなかった理由」が述べられていますが、これらの現状認識には近年の学校教育機関および研究・学術機関における非正規雇用化の進展によって、たくさんの女性の教育・研究関係者が不安定な待遇におかれることになったことが、まったく視野に入っていません。これらの女性の不安定待遇の解消なくしては、女性比率の抜本的な向上は望めないということを、明記することを要望します。

5)人権・性的多様性を尊重した性教育の必要性について

「第10分野 男女共同参画を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の充実」に関して、いずれの教育段階についても、男女平等および性的多様性尊重の視点を踏まえた性教育の必要性についての記述がありません。「男性に甘く/女性に厳しい」性道徳のダブルスタンダードを批判し、自他の人権を尊重した性行動をうながすような教育が必要だとする指摘がぜひとも必要です。また、多様なセクシュアリティをみとめる/セクシュアル・マイノリティの権利擁護の視点を含めることは、国際的な人権尊重の流れがもとめるものであると同時に、国内的にも当事者から強く要求がだされている点であり、教育において充実すべき重要な課題です。21世紀初頭に生じた「過激な性教育」「ジェンダーフリー教育」バッシングは、事実を歪曲・誇張した批判であることが多く、当時のバッシングによって性教育やジェンダーに関わる教育実践は後退を余儀なくされてきました。学校現場や行政施策における「人権尊重・平等の視点からの性教育」や「性的マイノリティに対する差別・人権侵害解消のための教育活動」を本来あるべき状態にもどし、さらに充実したものに発展させるために、それらの教育の必要性を明確に謳った文言を含めるべきだと考えます。教育関係者が安心して子どもたちに人権・多様性尊重の視点からの教育をおこなう環境、換言すれば、すべての子どもたちが安心して自他の権利やセクシュアリティに関して学べる環境を整えていただくことを要望します。

おわりに

男女共同参画社会基本法が施行されて、10年が経ちました。何が実行されて、何が実行されていないのか。今こそ、立ち止まって考えるときです。
計画をつくることが目的ではないこと、そして、計画を実行することこそに意義があること、これらの観点から、第三次男女共同参画計画が実効性を伴う計画となるよう、要望いたします。