NewsLetter 第95号 2003年7月発行

日本女性学会NewsLetter

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女性学会ニュース第95号[PDF] 2003年7月発行


学会ニュース
日本女性学会  第95号 2003年7月

2003年 日本女性学会大会報告

シンポジウム:「男女共同参画」をめぐる論点と展望 コーディネーター

舘 かおる

2003年度日本女性学会シンポジウムは、6月7日(土)の午後、上記のテーマで開催された。まず、本シンポジウムの開催趣旨について、コーディネーターから「男女共同参画及びフェミニズムへのバッシング状況を把握するとともに、その論理及び政治構造を分析すること」に置いたとの説明があった。

亀田温子報告は、「ジエンダーフリー教育は、性差解消により男女を画一化するもの」という「つくりだされた定義」により、危険な教育という認識を広げることで、進み始めた男女平等教育をゆり戻す動きが強まっている状況、その中で行政の事業や予算の変更も行われている現状を明らかにした。一方、学校教育現場で試みられている「性」や「家族」に関わる教育や男女混合名簿の実践への攻撃、さらに教師に対する個人攻撃のかたちで教育批判が展開している実態も報告された。そして教育の右傾化の動向に対し、ジェンダーフリー教育の実質を捉えられる教師の力量形成と、地方行政担当者が自己規制しないことを重要なポイントとして提示した。

船橋邦子報告は、具体的に大阪府、千葉県、宇部市などの男女共同参画条例制定をめぐるバックラッシュの論点を整理し、反共主義勢力が、戦後左翼への違和感を抱く層を巻き込み、有事関連三法の法制化などにつながる路線を強めていることを指摘し、次々に法案を成立させる国政と地方分権政治の関係を、緊張感をもち注視することの重要性を提起した。

伊藤公雄報告は、バックラッシュ派の論理の基本的枠組みを提示した上で、その背景を整理した。「バックラッシュの論理」として、本来ジェンダー・バイアスからの解放を意味する「ジェンダー・フリー」を「性差の否定」とねじまげて批判する動きや、「専業主婦否定」、「家族の絆を破壊する」、「リプロダクティーブ・ヘルス/ライツ」批判、さらに「結果の平等の押し付け」や「洗脳」だというバックラッシュ派の論理の構図が分析された。その上で、こうしたバックラッシュ派の論理のレトリックが考察され、バックラッシュの流れが整理された。つまり、イデオローグとしての「伝統的・反動的保守」とともに、「自称リベラル」の「フェミニズムは価値観の押し付け」であるという批判の動きが整理され、それを支持する人々の背景に、他者を攻撃することで「不安定な自己の普通さ」を防衛する動きや、「解放の理論」であるはずのフェミニズムが、彼ら・彼女らには「抑圧の論理」として把握されていること(いわば「反体制派」をきどるバックラッシュ派)、さらに、社会の大きな変化のなかで不安を抱き始めた男性たちの姿が分析された。なかでも、女性のサポートを前提にして生活してきた男性たちが、女性の自立・社会参加によって、これまでの「女性への依存」状況が切り崩されるのではないかという危機感を抱いている状況についての言及がなされた。

参加者からは今後の分析軸となる問題提起がなされた。例えば「フェミニズム言説の捏造のされ方」、「政策と個人の内面のズレ」、「一元的な語り方ではなく多様性をもたせるフェミニズムや男女共同参画政策のレトリック」、「政策に両脚を乗せない運動の大切さ」、「海外でのフェミニズムとジェンダー主流化政策推進へのバックラッシュの状況調査」などである。

シンポジウムの参加者の半数の約100名は会員以外の政策担当者や学生であり、アンケート調査の感想は「バックラッシの構図が理解でき、大変参考になった」、「問題の根深さが理解できた」等が多数を占めたが、若手研究者からは、もう少し理論的な議論が必要との感想も見られたという。ウーマンリブ運動、国連の女性差別撤廃条約に基づく各国の政策、そして「ネオ・コン」と称される新保守主義の台頭という歴史的状況の変化の中で、現在の日本の男女共同参画政策とフェミニズム、女性学、ジェンダー研究の関係を、理論的かつ政策的に検討していくことは、今後も不可欠の課題であろう。日本女性学会では引き続き、このテーマを研究会の場で継続していく。

会場から実り多い情報

根岸泰子

司会者からの、写真撮影および無断録音はご遠慮くださいとの呼びかけから始まった今回のシンポジウムは、昨今の男女共同参画社会基本法やそれに準拠した条例へのバッシングと揺り戻しの顕著な動きに呼応した今回のテーマへの緊張感を改めて認識させつつ、全体としては淡々と、しかし実り多い情報をもたらしてくれたように思う。

印象に残ったのは、条例がちゃんとしているところは総合的・横断的女性政策課の役割がきちんと機能しているという船橋発言だった。福祉・医療・教育・警察関係etc.が一カ所で錯綜する場としての女性問題に日々直面し苦闘する部署では、イデオロギーよりも何よりもこの総合的・横断的機能が有効なのだということを身にしみて知っている。共同参画基本法のこのような現実的効用を保守派イデオローグはどう意味づけるのだろう。

そのいわゆる保守派に照準を当てた伊藤分析「バックラッシュの構図」では、バックラッシュのイデオローグとその支持者について今話題の小熊英二・上野陽子『<癒し>のナショナリズム』を援用しつつ、さらに男性たちの内的もろさへと半ば自己言及した指摘があり参考になった。前者については昨今のウェブ上での女性センター掲示板への攻撃的な書き込みをよく目にする私としてうなづける点が多かった。

時間が押していたせいか最後のフロアとの直接応酬がちょっと少なかったのが残念だったが、「一元的なメッセージの語りでは運動はダメで、正確に伝えるためには多様に開かれた語り口(レトリック)をめざすべき。また韓国(性差別禁止法)や台湾など東アジアのジェンダー状況の調査・連帯が必要」(伊藤)、「人とのネットワークが大切。教組だけでない新しい人のつながりを強めていくことが一番の基本」(亀田)、「柔軟な対応が大切だが自己規制はダメ。みんなでサポートして孤立しないという状況作りも必要」(舘)という三者の発言は、期せずして今後の私たちの対応について、共通の方向性を示唆してくれていたのではないだろうか。

理論、運動論の構築が必要

森屋裕子

今回は、私の身近でも頻繁に起こっているバックラッシュについて、その背景や構造を整理し、あわせて女性学がどのような形で対峙するのか、できるのかの効果的な方策を探りたいという問題意識をもって参加した。

大会第一日目のシンポジウム「男女共同参画社会をめぐる論点と展望」では、亀田温子さん、船橋邦子さん、伊藤公雄さんによって、「教育改革」「条例制定」の現場でのバックラッシュの状況やその論理構造、背景などについての分析がなされ、現状整理に大変参考になるパネルが展開された。行政や学校、議会の現場は、「全国統一規格」の、声高なレトリックによる攻撃への対症療法的対応に追われている。そうした状況下では、攻撃の背景にある複数の流れとその実力のほどを冷静に分析し、それに基づいた対応方法を議論し、提示していくことが女性学に求められている。その点で、今回のシンポジウムは時宜を得た企画であったと思う。

しかし、内容的には、バックラッシュの構造や背景を現場の状況と有機的にからめて議論を深めていくことについては、物足りなさが残った。考えてみれば、グローバル化の中でのネオコンの隆盛ひとつとっても、事態が日々刻々動いており、その分析については幾筋もの議論が現在進行中である。パネラーの方々や参加者がそれを共有し、教育や条例策定の現場にひきつけて議論していくには絶対的時間が不足していた。

本学会には、各地の条例作りや教育も含めた男女共同参画政策の展開にフェミニズム、女性学の専門家として、行政職員として、活動家としてかかわる会員が多いと思うが、最前線での対応がせまられている今は、政策決定、実施過程におけるそれぞれの役割や立場の共通点と違いをふまえた理論、運動論の構築が必要である。二日目のワークショップ「男女共同参画推進条例づくり攻撃に対抗する」では若干試みられていたが、よりつっこんだ展開が、早急に求められていると考える。

日常の議論の中の歪みを正していこう。

松尾奈々

2003年6月、私が初めて参加した日本女性学会大会のシンポジウムのテーマが「バックラッシュ」だった。学会に参加する以前から日本における「バックラッシュ」については耳にしていたが、ここまで組織化されているとは知らなかった。2001年、私は、アメリカのオレゴン大学で女性学に出会った。 WST101(女性学基礎)で最初に出された宿題が、Susan Faludiの “BACKLASH−The Undeclared War Against AmericanWomen−”(1991) のリーディングだった。それまで女性学もフェミニズムも聞いたことがなかった私が女性学に関しては、ほぼ私と同レベルのクラスメイト達が最初に学んだのがフェミニズムがこの社会でどのように映っているか、そして、何が偏見なのかだった。それを知った上で、私たちは女性学を学び始めた。アメリカにも日本にも共通する点は、反論する側がその本質を理解することなく間違った解釈でメディアなどを媒体に反論しているという点だ。

シンポジウムの2番目のパネリストである船橋邦子さんが、行政にまつわるバックラッシュの話をされた。手渡されたレジュメに添付されていた「日本時事評論」の記事を見て、「ぎょっ!」とした。第一に見た目がとても嫌な感じで、まるで悪徳商法の紹介をしているようだった。内容をよく見てみると勘違いだらけ。勝手に男女共同参画社会の定義付けをし、それに反論している。それを見ながら、もし、私が女性学に出会う前に、この記事を読んでいたら?と想像してみた。男女共同参画の本質を知らないからこそそれが偏見なのか正しいのかどうか、見抜く力がない。だからとりあえず、男女共同参画から遠ざかるような気がする。私が現在関わっている行政でもゆり戻しが起こっている。まず、社会教育講座を企画する段階で、「タイトルに『女性』『ジェンダー』を付けてはいけない」「対象者を女性限定にしてはいけない」などと言われ、タイトルや対象者を変更する必要があり、内容がぼけてしまう場合がある。行政内部だけではなく、一般市民からも「男女共同参画」に対する抗議電話を受ける。それから日々の私生活でも、女性学を専攻しているというと、「男女平等って言うけど、元々男と女は違う生き物なのだから・・・」と始まる。そしてやはりそこでも歪んだ定義を基にした男女共同参画について批判的な意見を受ける。

シンポジウムに参加して組織化されたバックラッシュの現状を知り、自分には何が出来るか考えた。とりあえず、すぐに出来ることは、この様な日常の議論の中にある歪みを一つ一つ正していくことだと思った。

ワークショップ報告

(1)日々の活動から、女性学とのつながりを求めて

渋谷 典子

学びから実践へ、実践から研究へ。その接点を求めて、ワークショップを開催。ウイン女性企画の成り立ち、活動目的、『出口の見える循環型講座』についての説明、そのなかの『読み書き論文講座』の成果と課題について報告することからはじまった。「30年にわたってどうやってグループ活動が存続したのか」「新しい人材がなぜ参加するのか」「法人格を取った経緯は?」—参加者からのさまざまな質問や意見でテーマは広がっていった。そして、「女性学は当事者性が重要な学問であり、学び・活動・研究が一体化している」—このことを参加者とともに共有できたことを記しておきたい。

NPOで活動しているわたしにとって、日々の変化はめまぐるしい。2月にワークショップの申込をした段階では想定していなかった「名古屋市男女平等参画推進センター/つながれっとNAGOYA」(6月18日オープン)の協働運営NPOとして、名古屋市から事業を受託した経緯についてもあわせて報告。「NPOへの委託は、行政が運営することと比べると少ない予算なのでは?」「有償労働になり効率性を求めるようになると?」「活動のなかでの関係性と仕事については?」—これから事業を実施していくわたしたちにとって、有意義な質問や提言をいただくことになった。名古屋市では、NPOが施設の協働運営を受託する初めてのケース。その分野が「男女共同参画」であれば、その成果は必ず「男女共同参画社会の実現へ」とつながるはずである。新たな実践の場から、研究へ。次の一歩がはじまっている。

(2)ポルノグラフィー被害を考える〜DV、セクシュアル・ハラスメントと「ポルノ被害」

春原千咲
ポルノ・買春問題研究会

当研究会が実施した「ポルノに関連した被害についてのアンケート」調査報告をもとに、女性の人権という視点から、ポルノに関する被害と加害についての認識を深め合うことを目的におこなった。とりわけ、調査実態からドメスティック・バイオレンスとポルノ被害との関連性を中心とする報告と討論を通じて、ポルノグラフィが、女性への人権侵害であるという認識への共感が得られたことが、意義深かった。

討論の概要は、今後、当事者にとって危険のない形でどのように被害を語ってもらうことができるのかが課題となるとの重要な指摘をはじめ、痴漢冤罪を流布するメディアや性犯罪をすり抜けようとする様々な言説への批判をおこなう必要性、外国人女性が強いられている売買春の深刻な現状などについての発言があった。さらに、インターネットやデジタル・カメラ、携帯電話などの急速な普及が犯罪の温床となっている現実に触れ、不特定多数へポルノが送られてくることへの問題化が不可欠であること、「児童ポルノ」、「殺人ポルノ」への戦慄と恐怖、怒りなども語られた。

そして、ポルノが「女性への暴力」であるという事実に加え、同性愛者間のポルノによる暴力を見落とすことがあってはならないという趣旨の意見が出され、まさに「女性に対する性暴力」を問題化する中で明確にしていくべき課題として、その重要性が確認された。今回、調査協力をいただいたひとりの女性弁護士が、現場からの声として、会の依頼を受けいくつかの判例をもって参加されたことも、重要な柱のひとつとなった。「盗撮」や「のぞき」などに対する社会の甘い風潮が、そのような犯罪を助長しているという点に言及し、ポルノ視聴は単なる趣味の範疇ではないのだ、との説得力ある発言をおこなった。

今後の課題を模索していく上での貴重な場となったことと、参加者への感謝を記したい。

(3)当事者の視点で問う「DV防止法」

原田恵理子

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」の見直しの動きのなかで、DVの被害をうけた当事者にとっての有効な援助施策など見直しの課題を探ることが、このワークショップの目的であった。

特定非営利活動法人ウィメンズ・ライツ・センターから、DVの被害者3人が参加して、それぞれの思いを語った。9年前に子どもを連れ着の身着のままで家を出てシェルターに避難したAさんは、被害者が居所を失うことが前提になっているDV防止法の問題点をあげ、「加害者の厳罰を求める。加害者を家から退去させるよう改正してほしい」「現在のDV防止法は、シェルター以後の支援策がない。女性と子どもは、家を出たあとにより困難を抱える」と、子どもへのケアもふくめたきめ細かい総合的支援策の必要性を訴えた。10代の娘を夫の元に残して家を出たBさんは、家裁調停での二次加害や、単身女性への援助施策とりわけ就労の貧困さをあげ、働く場の確保と被害者の相互支援・支えあいが、被害者支援策の中核に据えられ必要があることを強調した。国際結婚・離婚を経験したCさんは、イギリスのレフュージ(シェルター)でのサポートと比較しながら、日本では、地域での援助システムの不備がDVの潜在化や被害者の孤立化につながっているのではないかと述べた。参加者からは、内閣府や参議院の動向について、また加害者対策の効果等について質問があった。

2003年2月末に参議院共生社会調査会にDV防止法見直しのためのプロジェクト・チームが発足し、内閣府も見直しに向けての「論点整理」を公表するなど動きは活発化している。見直しのポイントとしては、被害者の権利の明記、行政責任の明記、被害者の定義の拡大、暴力の定義の拡大、保護命令制度の改善、関連法の改正、若年者への非暴力教育などがあがっているが、被害者の「声」は、届きにくい。このワークショップはささやかな試みではあるが、DV防止法の改正のみならず、今後、参加者がそれぞれの地域で、被害者とともに支援システムを模索していく契機となることを期待したい。

(4)「シングルマザー」を考える

山本 昭代

「シングルマザー」はジェンダーや家族を対象としたあらゆる分野の研究のなかでも、今日ますます比重を増しているテーマであるが、依然としてその対象は他者化され、研究者から差異化された存在として扱われがちである。このワークショップでは、母子家庭の母の当事者団体であるしんぐるまざあず・ふぉーらむの会員を中心に、シングルマザー当事者であるさまざまな分野の研究者ら5人が集った。当事者がシングルマザー研究に取り組むことを通じて、これまでの研究の問題点を検討しなおし、新たな方向性を提示することを目的とした。

まず山本昭代(社会人類学)は、欧米におけるシングルマザー研究と途上国における女性世帯主世帯研究のこれまでの流れを検証し、メキシコ先住民村においていかに「シングルマザー」が出現し、共同体の中で位置づけられるようになったかを紹介した。次の杉山直子(アメリカ文学)の報告では、アメリカ文学においてどのように「母の語り」が出現するようになり、近年「権威ある母親」「強い母親、脅威とならない父親」という新たな家族モデルが描かれるようになってきたことを論じた。さらに小林亜子(西洋史)は、16〜17世紀ヨーロッパにおいて、非嫡出子の扱いがどのように変化したか、母親と父親に対していかに異なった扱いがなされていたかを明らかにした。次いで堀田香織(臨床心理)は、これまでの母子家庭を巡る心理学研究の動向を振り返り、その問題点を明らかにするとともに、新たな視点からの母子家庭研究の必要性を提起した。最後に赤石千衣子(しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事)は、日本の母子家庭の当事者運動の歴史を振り返り、戦後の母子福祉制度の確立に当事者からの積極的な働きかけが大きな役割を担っていたことを示した。

このように多岐にわたる分野でそれぞれに異なった視点からの研究であるが、いずれも主体としてのシングルマザー自身のダイナミクスに着目している点が興味深かった。しかし時間的な制約のため議論を十分に深めるには到らず、今後とも研究会などの形で継続していきたいと考える。

(5) 男女共同参画推進条例づくり攻撃に対抗する

出納いずみ、斎藤周、橋本ヒロ子、内藤和美

1)、2)、3)の3報告を踏まえ、57人の参加者とともに意見を交換した。

1)「男女共同参画推進条例づくり攻撃に対抗する」−千葉市、千葉県の場合

「千葉市条例」は当初、素案を公表しない方針の行政側が、市民、一部議員の抗議で素案公表となり、「女らしさ、男らしさ」「家族を中心に」が突然入ったことがわかり、抗議活動をし、削除された。素案の公表は不可欠。「千葉県条例案」は県民参加で1年半をかけたが、自民党が「性別にかかわりなく」「性の自己決定権」をはじめ多くの部分に反論を展開し、継続審議を繰り返し、最後は自民党案の提出となったが、両案とも廃案となった。6月議会でのゆくえは不明。議会の勢力構成は重要である。

(出納いずみ)

2)前橋市での条例制定経過を振り返る

群馬県前橋市の条例(3月の市議会で全会一致で可決成立)の制定経過を紹介した。反対運動が強まる中で制定にこぎつけることができた要因として、協議会(市民15名で構成)が熱心な議論を積み重ねて市長に提言を提出したこと、しっかりとした姿勢の事務局が協議会提言を尊重して庁内の調整にあたったこと、市長が前向きの姿勢であったこと、市議会に強硬に反 対する議員がなく、疑問をもつ議員も市長与党の一員として賛成したこと等があげられた。

(斎藤 周)

3)条例制定におけるバックラッシュの概況と対応

2003年3月に制定されたさいたま市と朝霞市の条例を紹介し、全国的なバックラッシュの傾向分析と影響を少なくするための対策を報告した。さいたま市条例は、最大会派の女性議員、市民グループ、行政担当者の連携により、反対派が意図した内容にならなかった。リプロも表現を変えて入った。一方朝霞市では、案より後退したものの特徴的な事業評価などが条例に入ったが、担当者は交代し条例案策定に貢献した市民・専門家が審議会に入らず条例実施の継続性が困難になった。

(橋本ヒロ子)

会場からは、「法律・条例など制度ができることに焦点をあてて活動することもさることながら、そこからあるいは別のかたちでどのような活動を展開するかが大事だ」、「攻撃する側のインターネットを通じた発信は上手で人を引きつける。インターネットによる発信をもっと工夫・活用してはどうか」、「ネットワークこそが力である」などの意見が述べられた。こうした情報・意見の交換の場を密に積み上げていくことの大切さを確認したワークショップであった。

(内藤和美)

■個人研究発表

信楽町の共同参画への取り組み 寿崎かすみ
「教育とジェンダー」に関する意識調査
—同志社女子大学卒業生対象の調査研究より
三宅えり子
作られた自爆攻撃者の母親像?
—パレスチナ滞在から見えてきた虚像
清末 愛砂
バングラデシュにおける「女性への暴力」を考える
—新聞報道と現地芸術家によるアートの考察
水野 桂子
ICTとジェンダー 國信 潤子
活用事例調査から見たNPO/NGOにおける女性のICT活用事例とその傾向 松浦さと子
セクシュアルマイノリティが照射する人権教育の課題
—大学教育実践「同性愛者と語る会」の視点
吉田 和子
下田歌子の社会構想と「手芸」 山崎 明子
ポルノグラフィー(アダルトビデオ)とフェミニズムの距離感 矢島 千里
メディアの中の「ロリータ」
—日本における「ロリータ」構築をめぐって
須川亜紀子
日本の新聞におけるピルの報道にみるジェンダー観の分析
—80年代半ば以降を中心に
アナリア・ヴィタレ
性犯罪裁判を読む—ある強姦事件の事例から 牧野(博田)雅子
法律学における婚外子の問題化過程
—商業誌の記事分析から
橋本マコト

■「少子化対策基本法」に対する意見書

日本女性学会は、「少子化社会対策基本法案」に対し、6月7日の総会出席者一同で、下記の「要望書」を、衆議院内閣委員会に提出することを決議した。6月12日(木)衆議院本会議で可決されたのちも、参議院内閣委員会に同文の要望書を提出した。しかしながら7月22日(火)には参議院内閣委員会で可決され(付帯決議つき)、参議院本会議で成立した。

「少子化社会対策基本法案」に対する要望書

2003年6月3日
日本女性学会総会出席者一同

今国会に再上程された 「少子化社会対策基本法案」に対し、日本女性学会では、6月7日の総会において、以下の理由から、法案の慎重審議を決議し、ここに要望書を提出する。

I.「女性の人権」を尊重した立案の必要性

「少子化社会対策基本法案」(以下法案と略す)は、少子化を「21世紀の国民生活に深刻かつ多大な影響を及ぼす」とする現状認識から作成され、その基本理念には、「家庭や子育てに夢を持ち、子どもを生み育てるための環境整備」を講ずるとある。しかしながら、本法案は、妊娠、出産、育児により多大な影響をうけることが多い女性の立場を十分に考慮した立案となっていない。本法案においても位置づけられている男女共同参画社会基本法、世界的には国連の女性差別撤廃条約等の基本理念となっている「女性の人権」を重視した観点が希薄と言わざるを得ない。特に、1994年のカイロ人口会議以降、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は、産む、産まないまたは産めない女性の人権を重視して国際的に合意形成された理念である。少子化社会対策にあたっては、女性の多様な生き方の自己決定や選択可能性を認め、不利益を被らないような施策が、最も重視される必要がある。

II.母子保健医療体制充実の項目検討

法案は、基本法であるにもかかわらず、不妊治療の規定が別項に規定され、突出している。現在生殖医療技術の利用に対する法の制定準備作業が進められており、いまだ国民の間で十分な議論がなされないままである。生殖補助医療は、不妊原因が男性にあっても女性が治療の対象になるものであり、特に、日本のように、女性に子どもを産むことを求める家族・親族・社会の圧力の存在が否定できない社会においては、慎重にこの問題に取り組んでいくべきである。また、正常出産の場合は、健康保険が適用されず自己負担となっており、費用は非常に高額であることから、現在の正常出産に対する助成や周産期医療の不十分さを是正することを盛り込むことが必要である。現在の母子保健医療体制をめぐっては様々な問題点があるので、十分な検討のうえ、妊娠と出産に関するサービスの提供の充実を図るべきである。

III.出産・育児の負担を軽減する環境整備政策の重要性

少子化の原因分析を十分検討し、子育て環境整備の具体化を盛り込んだ観点を重視すべきである。内閣府が行った「社会意識に関する世論調査」(2002 年)において、「理想の子ども数」を2人、3人と答えた人は合計8割以上であった。人口問題審議会の「少子化に対する基本的考え方について」(1997 年)では、少子化の要因を「育児の負担感、仕事との両立との負担感、教育の経済的負担」と分析している。「厚生白書」(1998)でも子育て支援策として、仕事と家庭の両立支援策をあげた女性が多かった。少子化に関わるこのような分析をもとに、具体的かつ適切な対策を法案に反映させることこそが重要である。

IV.両性による育児の共同責任及びひとり親家庭の支援等の明文化

施策の基本理念における子育て責任については、国が父母その他の保護者の養育を援助する等の責任を負うことを盛り込むべきである。少子化の原因の一つが育児の負担感と仕事の両立の困難にあることは上述のとおりであるから、子育てについて国が個人を援助する等、国にも責任があることを明記すべきである。このことは、「子どもの権利に関する条約」、ILO156号条約、同165号勧告、男女共同参画社会基本法等で明記されている。また、婚外子やシングルペアレントなどのひとり親家庭の支援についても重点を置く必要がある。さらに、教育、啓発に関して規定するのであれば、少子化社会にあって、女性と男性の多様な人生選択を可能にする男女共同参画社会形成のための教育、啓発を規定すべきである。

V.地球規模で「人口問題」を考慮する必要性

地球規模で考えるならば、「人口増加をいかに抑制するか」が、人口問題の課題となっている。日本を含む先進諸国のエネルギー消費は、人口増の途上国を遙かに上回っており、人口と環境の関係は、単なる人口数ではなく、一人ひとりの地球環境に対する重みの問題であることが確認されている。しかしながら、この法案には、日本という限られた国家のみを見て、かつ少子化を有史以来の未曾有の深刻な事態と把握することを前提にしている。日本という地域を対象にするとしても、自国の出産奨励のみではない、より広範な視野にたった考察が不可欠である。本要望書は、法案自体を全面的に否定するものではないが、上記のような重大な問題点があるので、今国会での成立は見合わせ、慎重な議論を求めるものである。

連絡先:日本女性学会事務局
(千葉県市川市南八幡1-16-24)

■会員の活動

著 書
杉田聡 『レイプの政治学—レイプ神話と「性=人格原則」』  明石書店 2003

女性学・ジェンダー論 関連科目についての調査への協力の依頼

独立行政法人国立女性教育会館情報課より以下のような依頼がありましたので、掲載します。

当国立女性教育会館では、全国の高等教育機関における女性学・ジェンダー論関連科目についての調査を行っております。これは、全国の大学・短期大学より最新データを収集し、これらの科目の開講状況をWEB上データベースとして広く一般に公開することを趣旨とするものです。しかしながら、例年、調査漏れの指摘、データ追加の要請等を頂いておりますので、関係者の方々に貴学会からも広報にご協力くださいますようお願い申し上げます。

そこで、たいへん恐縮でございますが、貴学会のニューズレターやWEBページ、メーリングリスト等の媒体を通じて、女性学・ジェンダー論研究者に対して調査への協力を呼びかけていただけませんでしょうか。当館からの依頼文を添付ファイル“joseigaku.txt”としてご用意させていただきましたので、ご活用いただければ幸いです。

ご承知のように本データベースは、継続的に実施している唯一のものであり、網羅的にデータを収集し、充実整備を図りたいと考えております。

なお、昨年度までの調査結果につきましては、当会館のWEBページhttp://www.nwec.jp/の「女性学・ジェンダー論関連科目データベース」もしくは「女性学科目DB」の項目をご覧ください。今年度の調査につきましては、6月24日をもちまして調査依頼を各大学・短期大学に送付いたしました。

ご多忙のところ恐れ入りますが、何とぞ本調査の趣旨をご理解いただき、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

独立行政法人国立女性教育会館情報課

公募のお知らせ

 

中京大学 女性学専任教員公募

学  部・研究科 教養部
職  名・人数 教授、助教授または講師1名
担当科目 全学共通科目の女性学およびその関連科目
応募資格
(1) 女性学/ジェンダー論関連領域で博士号を取得、あるいはそれに準ずる研究業績を有する者。狭義の女性学にとどまらない研究領域を持つことが望ましい。
(2) 生年月日が1965年4月1日以降であること。
(3) 採用後、勤務地近辺に居住できる者。 採用時期 2004年4月1日
応募締め切り 2003年9月22日(月)必着
提出書類
(1) 履歴書 (市販履歴書用紙に準ずる書式。写真貼付)  1部
(2) 研究業績目録 1部
(3) 主要研究業績5編以内の要旨(各1,000字以内) 1部
(4) 着任後の研究計画と教育の抱負(各1,000字以内) 1部
選考方法 教養部教授会において審議決定する。
書類提出先
〒468-8666 名古屋市昭和区八事本町101−2
中京大学 教養部長 桑村哲生 宛
電  話 052-835-7181(教養部事務室)
※封書に「教養部『女性学』教員公募書類在中」と朱筆し、書留で郵送すること。
その他
(1) 提出書類された応募書類は返却いたしません。
(2) 一次審査通過者には、研究業績10編以内の現物、または写しをお送りいただきますので、あらかじめご用意ください。
(3) 二次審査通過者には、健康診断書をご提出の上、面接に望んでいただきます。

安倍フェローシップ  個人研究プロジェクト公募

国際交流基金日米センター(CGP) と米国社会科学研究評議会(SSRC)が共催する安倍フェローシップ・プログラムは、社会科学分野の個人研究プロジェクトを公募しております。締め切りは9月1日です。
安倍フェローシップ・プログラムの詳細につきましては、
http://www.ssrc.org/fellowships/abe あるいは
http://www.jpf.go.jp/j/region_j/cgp_j/intel/abe/index.htmlをご参照下さい。
米国社会科学研究評議会(東京事務所)
代表 フランク・ボールドウィン
戸田 拓哉

ニューズレターへの投稿・研究会企画の募集

*今年度大会シンポジウムのテーマ〈「男女共同参画」をめぐる論点と展望〉に関するご意見をお寄せください。
締め切り: 10月10日
宛先: 牟田(次号担当)

*研究会企画を随時募集しています。学会から補助が出ます。
希望者はお問い合わせください。
細谷(研究会担当)